優しい貴方へ | ナノ
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▽ 初めまして、作り笑いのキミ


「今すぐ来てちょうだい」


突然のベルモットからの呼び出しに、急いで待ち合わせ場所である組織のセーフハウスに出向くとそのにいたのは、俺を呼び出した張本人と一人の女性。


ベルモットは隣に立つ女性を見ながら、口を開く。


「貴方にお願いがあるのよ。しばらくここに泊まってこの子の面倒を見てちょうだい」


恐らく20歳前後の女性。長い金髪に細くのびた手足、少し色素の薄い瞳と小さな唇はにっこりと笑顔を作っていた。ベルモットの隣に並んでも、決して見劣りしないのはその容姿が平凡からかけ離れているからだろう。


「突然どういうことですか?」
「言葉のままの意味よ。しばらくこの子を見ててほしいの」


眉を顰めながらベルモットを見るが、彼女は悪びれる様子もなく言葉を返す。


「彼女は一体誰なんですか?」
「ジンからの預かり物、貴方はそれだけ知ってればいいわ」
「ジンから?」
「ええ、しばらくの間頼まれたのよ」
「はぁ、だったら貴女が面倒を見ればいいのでは?」


素性もわからない、しかもジンと関わりのある女性。面倒ごとに巻き込まれる予感しかしない。


「残念だけど、私は明日から海外なのよ。だから貴方にお願いしてるの」

頼んだわよ。そう言い残すと、引き止める間もなく部屋を出ていくベルモット。急いで彼女を追いかけ呼び止める。


「あの女性のこと、任務としてなら承ります。ただもう少し事情を教えていただけませんか?」
「貴方が知る必要のないことよ。


あ、そうだ。ひとつ約束してちょうだい?あの子をこの部屋から出さないでね」


そう言うと今度こそベルモットは、部屋を出ていった。これ以上追いかけても、彼女は何も話してはくれないだろう。そう判断した俺は先程の女性が待つ部屋へと戻る。


「しばらくの間よろしくね、バーボン?」
「・・・・・・僕のことをご存知でしたか」
「ええ、少しね。ジンから聞いてるわ」


彼女はゆっくりと微笑んだ。まるでどこか外国の人形のようだな・・・・・・、浮世離れした彼女の美しさに思わずそんな考えがよぎる。


「ジンとはどういう関係なんですか?」


あの男がわざわざベルモットに預けた女性。何もないわけがないだろう。


「関係・・・・・・。ペットみたいなものじゃないかしら?」
「ペット?」
「私はあの人に飼われてるからね」


飼われている。そう言った彼女の瞳は、ここじゃないどこか遠くを見ているようで儚げな見た目と相まって今にも消えそうに見えた。その様子からジンとの関係が、甘いものではないことがひしひしと感じとれた。


「しばらくジンが忙しいみたいでね。それでベルモットに預けられたの」
「貴女は常に誰かが見張らなければならない存在なんですか?」
「どうなんだろう。ジンがそう判断したならそうなんじゃない?」


そう言いながら彼女は、キッチンへと向かう。


嘘をついているようには見えないが、あくまで彼女の判断基準はジンなんだろう。大人の女性が監視まがいのことをされているというのに、彼女はなんの疑問も抱いていないように見えた。


「貴方もなにか飲む?」


キッチンからそんな声が聞こえ、そちらに視線を向けるとティーカップを出し紅茶を用意している彼女。


「手伝いますよ」


彼女の隣に立つと、紅茶の用意をするために服の袖をまくったのだろう。先程までは隠れていた細い腕が顕になっていた。


陽の光を浴びていないかのような真っ白な腕。そこには青紫に変色した多数の注射痕や、自傷行為のあとと思われる切り傷があり、その痛々しさに顔を歪める。


「あ、ごめんなさい。気持ち悪かったよね」


そんな俺の様子に気付いたのだろう。彼女はそう言うと、すっと袖をおろし腕を隠す。長い前髪に隠れ、彼女の表情は見えない。


「できた。私紅茶だけは美味しくいれられるのよ」


そう言いながら俺に紅茶を差し出す彼女は、にっこりと笑っていた。


(君?)


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