純白のゼラニウムを貴方に | ナノ
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▽ ゼラニウム


「まさか松田とヒロが警察学校行くなんて思わなかった」
「ははっ、オレもびっくりしたよ。噂の彼に会うなんて思ってなかったし」
「なまえ〜、俺も一応いるんだけど見えてる?」
「あぁ、萩原いたんだ」
「相変わらずひでぇなぁ、俺の扱い」


人の縁とは不思議なもの。


大学を卒業した松田は、警察学校へと進んだ。(あとおまけで萩原も)

そしたらまさかまさか、ヒロ(と零)も同じ警察学校だから世間は狭い。


入校してから初めて外泊が許された今日。


警察学校の近くまで松田を迎えに来ていた私の元にやって来たのは、ヒロと萩原だった。


どうやら松田と零は教官?か誰かに呼び出されているらしい。


3人で他愛もない話をしていると、大きめの鞄を持った松田が不機嫌そうな顔でやって来る。その少し後ろには零の姿。



「〜〜〜っ、松田!!!!!久しぶりだね!!!背高くなった?髪の毛伸びた?めちゃくちゃ会いたかったよぉ」
「・・・・・・うるせェ。1ヶ月で背も伸びねぇし、髪も変わらねぇだろ」


たかが1ヶ月、されど1ヶ月。


ろくに連絡もとれないその1ヶ月は寂しくて死にそうだった。


飛びついた私を片手で受け止めながら、呆れたように言う松田の顔をにこにこしなから見上げる。


「俺達飯食って帰るけど、陣平ちゃん達どうする?」
「なまえも一緒に行く?オレも久しぶりになまえと会えたから話したいし」
「ホント?!うん!私もヒロと・・・・・・「無理、腹減ってねぇし、眠いから帰るぞ」


ヒロに近付こうとした私の腕を引いたのは、やっぱり不機嫌そうな松田だった。

さっきより眉間の皺が深くなったような気がする。



そんな松田を見て、ニヤニヤとしている萩原と微笑ましそうに目尻を下げるヒロ。


ずるずると引き摺られるように彼から離れるとそのまま駅に向かう。そしてやって来たのは私の家。


大学卒業と同時に始めたひとり暮らし。


松田がこの部屋に来るのは初めてだから。何だか気恥ずかしくて直視できない。


「・・・っ、飲み物!お茶でいい?あ!コーラも買ってるよ!」

ソファに腰掛けた松田の隣に座るのが照れくさくて、キッチンに向かおうとするとそのまま腕を引かれた。


あっという間に私の体は松田の腕の中。


ばくばくと今にも心臓が張り裂けそうだ。



「なまえ」

限界だと思っていた心拍数は、名前を呼ばれた瞬間一気に跳ね上がる。


多分これ以上は心臓がオーバーヒートする。うん、死んじゃう、私。あ、でも松田の腕の中で死ねるならそれも幸せかもしれない。



どうにか恥ずかしさとうるさい心臓を誤魔化したくて、ぱんぱんっと彼の腕を叩く。


「そうだ!ホントに良かったの?」
「何が?」
「ヒロ達とのご飯。松田も行きたかったんじゃないのかなって」
「・・・・・・、」
「ゆっくり外でご飯なんか久しぶりでしょ?今からでも行って・・・・・・「うるせェ。ちょっと黙れって」


ぐるりと反転した視界。


目の前は松田の顔、そしてその後ろには真っ白な天井とわざわざオシャレなシャンデリアに付け替えた照明が覗く。


うん、あのシャンデリアやっぱり可愛い。


初めてのひとり暮らし。この部屋は私の好き≠ナ埋めつくした。女の子の可愛いお部屋だ。



「何考えてんの?お前」
「っ、」


会った瞬間から、ずっと不機嫌な松田。私のお部屋事情なんて今の彼に話してもいい結果にはならないだろう。



「・・・・・・ヒロ、ヒロ、うるせェんだよ」

吐き捨てるようにそう言った松田。思わずぱちくりと目を瞬かせる。



もしかして・・・・・・、



「ヒロのこと嫌い?」
「は?」
「警察学校で何かあったの?いや、でもヒロはいい人だから嫌われるなんてないか。優しいし」
「・・・・・・お前・・・、」






目の前この女はとことん俺のどす黒い感情をを煽ってくる。


諸伏はいい奴だ。

ンなことこの1ヶ月で嫌という程知っている。


それでも1ヶ月ぶりに会えた自分の女が、ヘラヘラと他の男と話しているのを見て気分がいいわけかない。


口を開けば「ヒロ、ヒロ」ってその名前を呼ぶ。

てかコイツ、零のことも名前で呼んでたよな。



ガキみたいな嫉妬。そんなの自分が1番分かっていた。




「松田?」


ほら、まただ。


俺のことはずっとそう呼ぶくせに。





「他の男にしっぽ振ってんじゃねェよ」
「っ、」


真っ白な首筋に唇を寄せると、なまえの身体がびくりと跳ねる。


相変わらず甘い匂いのする奴だ。その香りのせいで頭がくらくらする。

まるで毒みたいにそれは身体を駆け巡って、あっという間に熱を帯びる。


傷ひとつないその肌に舌を這わせると、腕を掴んでいたなまえの手にぎゅっと力が入る。


「・・・・・・んっ・・・、まつ、だ?」
「名前」
「・・・え?」
「いい加減に俺のこと名前で呼べよ」


付き合うようになってから、俺はみょうじのことを名前で呼ぶようになった。でもなまえは恥ずかしいからと今でも俺の事を昔と変わらない呼び方で呼ぶ。


そのクセ、ヒロや零のことは名前で呼ぶもんだからムカついて仕方ねぇ。



「・・・・・・だって、・・・んっ、恥ずかしい・・・もん・・・」
「もっと恥ずかしいことしてるじゃん」
「っ、バカ・・・!」


コイツの恥ずかしいの概念はよく分からない。


だぼっとしたオーバーサイズのTシャツの裾から手を入れながらそう言うと、真っ赤な顔で瞳を潤ませる。



そのままTシャツを脱がせ、鎖骨に口付けるとなまえは俺の肩を押す。



「んっ、待って、お風呂・・・」
「無理、俺が待てねェし」


まさかこんな感情を誰かに持つ日がくるなんて思っていなかった。その相手がなまえだなんて、な。






彼と身体を重ねることは初めてじゃない。


でも慣れることなんてあるわけなくて、胸元をなぞる松田の手の感触とか、鎖骨を舐める舌の温度とか。松田がくれるもの全てが私の中の何かをぐちゃぐちゃに乱していく。


私は松田しか知らないから。



「・・・・・・嫌なんだよ」

いつの間にか私の服を全て剥ぎ取り、自分のTシャツ脱ぎ捨てていた松田がぽつりと呟いた。



その手が私の頬に伸びる。


そのまま重なった唇。角度を変えて何度も重なる度、どちらのものが分からない吐息が溢れる。



「・・・んっ、・・・はぁっ・・・」

息を乱す私とは裏腹に、松田の呼吸は乱れていない。
何となくその余裕がムカつく。



「ヒロや零のことは名前で呼ぶくせに」
「・・・・・・っ、」
「頭いいんだから分かれよ、バカ」


多分私の恋愛偏差値は人並み以下だから。


不貞腐れたような松田の物言いに、きゅんと締め付けられる胸の奥。



「・・・・・・・じん、ぺい?」
「ん」


もしかしたら目の前の彼は思っているより余裕なんてないのかもしれない。


自惚れみたいな、願望みたいな、そんな気持ち。



「私のこと、好き?」
「好きじゃねェ女、抱こうなんて思わねぇよ」


ぎゅっと腰に腕を回し抱き着くと、昔と変わらない香りに包まれる。



陣平の手が再び私の頬に伸びようとしたその時、














ん・・・?待って。












「じゃあ、あの時のあのぶりっ子女のこと好きだったの?!」
「はァ?!いつの話してんだよ」
「とぼけんな!松田の初めて奪ったあのブスのことだし!!好きだからヤッたの?ねぇ!!」
「・・・・・・お前さ、まじでムードとかそういうのねぇの・・・?」
「ムードなんかよりそっちの事実確認の方が大事なの!!!答え・・・・・・・・・んんっ、?!」


私の言葉は強引に重なった唇に飲み込まれた。


酸欠寸前まで重なった唇。薄く開いた唇の隙間から割り込んだ舌が、私の舌に絡む。



「お前だから抱きたい。好きだから。それじゃダメなワケ?」


狡い。そんな目で、そんな声で、そんな言葉を言われたら、私はもう何も言い返せない。



「・・・・・・・・・私以外とヤッたら殺すよ」
「分かってるよ。てかお前以外とヤリたくねぇし」



ソファが2人分の体重に沈む。

私に触れる手が優しくて。余裕なさげに歪む顔が愛おしい。



やっと手に入れた大好きな人。


絶対に離してなんてあげないんだから。


世界で2番目に幸せにしてあげる。


ん?1番?
そんなの私に決まってるじゃん。


陣平の隣にいられる私より幸せな人なんて、この世にいるわけないでしょ?






Fin


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