純白のゼラニウムを貴方に | ナノ
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▽ ガーベラ


腹を括ってしまえば、今までの葛藤が嘘みたいに心が軽くなった。


どん底を知ってしまえば、それより最悪なんてないんだから。



「おはよ!」
「・・・・・・朝からでけェ声出すなよ」

大学の門をくぐり、少し前を歩く松田の背中に声を掛けると気だるそうな返事が返ってくる。


まだ眠そうに眉間に皺を寄せた松田と視線が交わる。



「萩原は一緒じゃないの?」
「昨日飲み会で遅かったから午後から来るらしい」
「じゃあ一緒に教室まで行こ!」


はぁ、とため息をつきながらも私が話しかけたら答えてくれる。それだけで幸せだと、心の底から思った。


広い講義室で松田の隣に座ると、周りがひそひそと声を潜めながら私達を見る。



「なんでなまえちゃん、松田の隣なわけ?」
「アイツら仲良かったっけ?」
「嘘、みょうじさんって松田くん狙いなの?」


外野は今日もうるさいけど、こんなのもう慣れっこだ。


大学に入ってから私が松田に纏わりつくことがなかったから、懐かしい反応に思わずふっと笑いが溢れた。


「席、他にも空いてるだろ」
「松田の隣がいいもん」
「・・・・・・あっそ」


そう言うと机に伏せた松田。腕の隙間から見える瞼にかかる長い睫毛。こんな距離で彼の寝顔を見るのも久しぶりのことだ。


手を伸ばせば触れられるその距離。



「なぁ」

そんな彼に見惚れていると、目を閉じたままの松田が口を開いた。


「何?」
「お前って俺のどこがそんなに好きなワケ?」


予想していなかった質問に、思わずきょとんとしてしまう。


ゆっくりと開いた瞼。真っ直ぐに私を見る松田から視線が逸らせない。



「全部」
「何だそれ、適当かよ」
「適当じゃないよ!ホントに全部だもん!松田の全部が私は昔から大好きだも・・・っ・・・んんっ・・・「っ、声でけェよ!バカか!」



授業前の賑やかな教室でも、私の声はよく響く。慌てた様子で私の口を手で塞ぐ松田。


ただでさえ注目されていた私達。周りの生徒の視線が突き刺さる。



「・・・・・・まじかよ、俺今日帰ろうかな」
「お前みょうじさん狙いだったわけ?無謀すぎだろ」
「最悪。なまえちゃんも松田くん狙いとか勝ち目ないじゃん」
「みょうじさんって萩原くんと仲良いから、てっきりそっち狙いだと思ってた」



おいコラ、最後の一言を言ったの誰?

誰が萩原狙いだって?天地がひっくり返っても有り得ない。


ぎろり、と声のした方を睨むと一気に視線を逸らす外野達。



「おい、そうやってすぐ周り睨むのやめろ」

ぱしん、と軽い力で頭を叩かれる。もちろん叩いたのは松田だ。


「・・・・・・っ・・・、」
「ンだよ、変な顔して」


叩かれた頭を両手で抑えながら、思い出すのは高校時代の似たようなやり取り。


あの頃の何倍も心臓が早鐘を打つ。



「大好き!!!」
「マジで意味わかんねェ奴」


呆れたように笑うと松田は、鞄からノートを取り出すとそのまままた机に伏せた。



ねぇ、松田。


二度と話すことすらないと思っていたから。こんな些細なやり取りすら、私には宝物みたいな時間なんだよ?

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