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「あ、いたいた!ゴンちゃーん!」
「なっ……お前っ!」


静寂の中に響いたどこか懐かしい声が俺の耳をさらった。
まさかと思い振り返った先には、か細い腕が折れてしまうんじゃないか見てるこちらが冷や冷やする程目一杯手を振りながら満面の笑みでこちらに駆け寄るアイツの姿があった。
俺は、はち切れんばかりに目を見開いた。
どういうことだ…?
何でアイツが…ヒナがこんなところに………これは夢か?俺の妄想か…?
頭の中の整理がつかないままにヤツは「感動の再会だねー!」と俺の胸に飛び込んできた。
何も感じないはずのこの身体に、ヒナの感触、温もりが確かに染み込んでショートした俺の頭はぐるぐると廻り、彼女の華奢な肩を押し突き放してしまった。
ついぞんざいな扱いをしてしまい、謝るべきだと喉元まで謝罪の言葉が上ってきたが今はそれすらも二の次。
それを飲み込んでまでも先に問わなければいけないことがある。


「むー、ゴンちゃんってば冷たーい。」
「ば、ばか!!お前…何でこんなとこに…、」
「にひひ、ゴンちゃんに会いに。」
「会いにって…ここどこだと思って…。」
「どこって……………天国?」


そうだ。その通りだ。
厳密に天国か地獄なんて証明するものはないが恐らく後者で無い事は確かだろう。
というよりはそうと願いたい。
生前は、死後の世界など人間が死ぬ事への恐怖を和らげる為考えた空想上のものだとばかり思っていたが皮肉にも今この俺の存在が真実を証明している。
しかし、他の勢力の襲撃や仲間の裏切りで混乱する戦場にて死の床を迎えた俺はともかくヒナがいていい場所な訳がない。
考えたくなんかないが、ヒナがここにいる……ということはつまり…。


「お前…まさか、」
「んー…うん!死んじゃったみたい。」


言葉を詰まらせた俺が皆まで言う前に、まるで転んじゃったとでも言うような軽いニュアンスで答えるヒナ。
何かの間違いだ。そうであってくれと願った俺の思いは呆気なく打ち砕かれパラパラと虚しい音をたてた。
しかし確かに偽りのないこの気持ちに矛盾するかのように、心のどこか深い所でヒナが傍にいる喜びを感じている自分が居る事に気が付いた。
そんな煮え切らない思いに俺は異様にむしゃくしゃして、彼女を咎めるのはお門違いだとは思いつつも声を荒げることしかできなかった。


「馬鹿!何で死んじまったんだよ!」
「んーわかんない。ゴンちゃんに逃げろって言われて逃げてたんだけど気が付いたら死んじゃってたみたい。なははっ。」
「なははっじゃないだろ…馬鹿やろー…。何で…お前まで………まだ…こんなに…若いのに……。」
「えー?ゴンちゃんも老けて見えるけど実は若いじゃん。」
「うっせー!」
「はっはっはー」
「………っ……。」


いつも彼女に対し偉そうに兄貴面をして威勢よく振る舞っていた故に弱さを見せたくなかった。
しかしつい俯いてしまった。
「あれ?ゴンちゃん…?」と顔を覗き込むヒナは恐らく初めて見たであろう俺の情けない一面にぎょっとしうろたえ始めた。


「ご、ごめんね!老けてるとか言ってごめんなさい!冗談だから!ね?泣かないで。」
「ばっ…ちげーよ。」


今にも零れ落ちそうな雫を乱暴に袖口で拭う俺を見て、全くのとんちんかんな答えを導き出したヒナに、やはり彼女は救いようがない天然だと思い知らされる。
涙がため息に変わるのも仕方がないだろう。
しかし生前と何も変わらない彼女のその途方もない明るさ、言動にドクンと心臓が脈打ち、気が付いた時にはその小さな身体を引き寄せて自分の腕におさめていた。
顔を埋めた彼女の髪には戦場の血生臭いにおいが残っているような気がして眉をひそめた。


「ゴンちゃん…?」
「ゴメンな…。守ってやれなくて…。お前だけでも生きててほしかった。」


先程怒鳴りつけた事も含めて詫びるように優しくその柔らかい髪を撫ぜる。
一呼吸おいて、ポツリとか細い声が俺の耳元で零れた。


「やだよ…。」
「ヒナ…?」
「私、ゴンちゃんと一緒じゃなきゃやだ。一人で逃げてる時に思ったの…、ゴンちゃんがいない世界で生きるより…、どこでもいいからゴンちゃんと一緒に平和に過ごせたらって…。」


だから私、今とっても幸せよ?と続け朗らかに笑うヒナに胸が締め付けられた。
正直、俺はヒナの事が好きだった。いや好きだ。
死してなお彼女の事を思っている。
それも恋愛感情というものを持って…だ。しかし、俺の立場はヒナの保護者。
その使命感の手前今まで自分の気持ちに目を逸らしてきたが、彼女のほんのり染まった頬を見るとそれも大した事でもないような気がしてきた。
この世界で立ち位置から肩書きから全てをリセットしてゼロからこの恋を始めよう…そう決心させるには十分だった。
モノは考えようだ。
生に未練がない訳ではないが争いのないこの平穏な場所で新しい関係を築くのもまたいいだろう。
しかしまだこの気持ちは封をしたままにしておこうと思う。
時間はいくらでもあるのだから…。


「これからはここでずっと一緒だからな。」
「うんっ!」


握った手にはまた温もりを感じた気がした。



(ゴンダ軍曹…我々もいることを忘れないでほしい。)
(しょ、少佐殿!申し訳ありません!)
(わ、少佐殿ー!会いたかったですー!)
(ヒナ…馴れ馴れしいのはやめろ)
(堅いこと言わないで下さいよー、死んじゃったんだから無礼講ですよ無礼講ー。)
((……………。))




end...



こんなに長くなるはずは…。




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