サチハカ過去編 レイヴン・ファミーリエが故人扱いとなって数ヶ月。"ハッカ・ファミーリエとして認知され、レイヴンの名を名乗るイカれた奴"として、今日も教団からの任務を消化する日々を送っていた。 その合間の貴重な休みを悠々自適と過ごしていたとき、ある言葉が耳に入る。 「脱獄したんだってよ。あのファミーリエ隊長の騙り者が」 ぼうっとコーヒーを啜っていた頭が一気に冴え、近くを通りかかった団員に飲みかけのそれを放って走りだした。 ちょっと隊長お行儀が悪い、という説教を無視し、地下の牢獄へ駆け抜けていく。 「ハッカ! ハッカ!? いる!?」 やはりボクのせいだ、とそれだけが頭の中でぐるぐると回っていた。 ハッカだって人間だ、自分がいないことにされているこの状況に、温く浸かっているばかりじゃないだろう。それこそ世界に絶望してしまったとしてもおかしくない。 「ハッカ!!」 「なあに、レイヴン」 盛大にこけた。 「ハ……ハッカ……、なにしとぉの……」 「鼠、捕まえたんだ。かわいいから見せてあげたくて。そうしたら大騒ぎになっちゃった」 「なるやろそりゃ! 投獄されてるんやよ!?」 確かにねと微笑む弟が、ずいとハツカネズミを差しだしてくる。確かにかわいいけれど、それだけのためにと肩を落とした。 「ボクのこと心配してくれたの?」 「するでしょ。だって、ボク――」 「ああ、それ以上はいわないで。自責なんかしないで。ボクは今のままでも十分幸せなんだ」 しばらくして、ハッカを――"ファミーリエ隊長を騙る不審者"を捕らえに騎士団が駆けつけるまで、些細な幸せを共有し続けた。 [前][目次][次][TOP] [しおりを挟む][感想フォーム][いいね!] |