ガブリエーレ過去編

 目が覚めた。
 "私"が"オレ"になったのだと、霞がかった頭で考えていた。
 ここは貧民街もいいところの裏路地、よほどのことがない限り光が入らぬ隅だった。
 空腹だと腹の虫が鳴いたので、意味はないが起き上がることにした。今のオレは"私"ではないから、満足するような上質な暮らしは送れない。だけど、"私"の知恵と力を持つオレなら、周りの同じような奴らと足を並ばないはずだ。
 魔術を使えばなんでもできる。食糧を調達することも、雨水を凌ぐことも、金稼ぎも、周りの奴らを蹴散らして特級町民になることも。

(……いや、待て。魔術を使えると知られればただじゃ済まない)

 なんでも叶うその前に、欲深い仲間たちの手によって道具にされてしまうだろう。
 ――それだけは阻止しなければ。鳥籠の中でか弱く鳴き続けるだけの存在になってしまえば最後、この人生、"あの子"には二度と。

「加減するしかねーな。……コソコソ動くの、めんどくせぇ」

 けれど隠れるしかない。
 隠密に、隠密に、隠密に。道端にひっそりと咲く花の如く生き、いずれ"あの子"に再開するんだ。

「待っていてくれ、ルキフェル」

 そして二人で緩く咲うのだと、踏み出した足を宙へ飛ばした。


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