レジー×レイ

「レイ、そいつが一番になっちゃった? レジーよりもタイセツなの?」

 レイにできた"コイビト"の話を聞いているうちに我慢できなくなっちゃった。ほっぺたをさくらんぼみたいにして声も体も楽しそうにしてるレイを見ていたら、すっと胸が冷たくなって、でもかっと熱くなって、それがすごく嫌だったから。
 レイが嬉しいならレジーも嬉しい。でもなんだか今のレイを見たくなくて袖を掴んだ。そうしたら体だけは止まってくれると思ったの。思い通りになったレイの不思議そうな顔も見たくなくて、一色ばかりの床から目を離さないまま口を動かす。
 レイとレジーはトモダチだよね? そいつとシンユウになっちゃったの? レジーがレイの一番だよ、レイと一緒に笑うのはレジーなのに!

「今でも一番だよ」
「ウソ!」
「本当だよ。でもね私、どっちも大切でたまらないんだ」

 勢い余ってレイの顔を見て、そこにあった嘘じゃないって気持ちにぐるぐる気持ち悪くなる。
 だってレイ、いってるもの。どう説明したらいいかわかんないって、それでも選んだのはそのコイビトなんだって。

(レイが、遠くにいっちゃう)

 これ以上レイを悲しませたくなくて、でもレジーたちの中にコイビトが入るなんて許せなくて、限界だって伝える胸倉がどんどん皺くちゃになっていった。



 どうしたらいいんだろう。レイと元通りの関係になりたい。レイの隣にいるトモダチはずっとずっとレジーだけでいいのに。なんでレジーたち以外に生きてる人間はレジーたちに近づくの? なんでレイと仲良くなって、レジーからレイをとっちゃうの。他のやつらの――コイビトのおもちゃ箱にしまわれる前になんとかしなくちゃ。……"壊して"しまえば。

(ううん、ダメ。レイに怒られる。そういうのヤバンだってみんなにいわれるし)

 それに、レイがもっと悲しんで、レジーのことキライになるのは嫌だ。じゃあ、"壊す"以外の方法でどうにかしなくちゃ。カラダは"壊し"ちゃいけない――けど、あれ、ココロのほうなら?

(レイを"壊す"のも……ダメ。だいすきなレイを"壊し"たくない)

 じゃあそうだよ、コイビトなら。コイビトのこと全然知らないし、レジーの知ってるひとじゃないって聞いたし。レジーからレイをとる悪いヤツだもの、そんなヤツのココロ、粉々にしたっていいよね。

(またレイと笑いあうの。遊んで、お話して、レジーだけに。それを邪魔するヤツ、全員"壊れ"ちゃえばいいんだ!)

 だぁれにも怒られない平和で素敵な"壊し"かた。お掃除がお仕事のひとと同じだよ、お片付けするんだ!



 数週間経って、レジーはレイのほっぺたをなでていた。レイのほっぺたはいつもよりじっとりしてて冷たい。大丈夫だよと笑顔のレイがいうには、最近コイビトとコイビトじゃなくなったらしかった。

「責任感強いなあ、って……私に迷惑かけたくないから別れようっていってくれて」

 悪口いわれたぐらいで一番じゃないって思うんだ。泣き声を聞いて胸が冷えていくのがわかる。前の冷えかたとは全然違う。レイが一番なら、悪口いわれてもレイをタイセツにしなよ。

(それ、レジーのウソなのに。そいつも心当たりがないはずなのに。弱虫)

 自分じゃないってはっきりいえばいいのに周りに悪口いわれたぐらいで逃げるなんて、コイビトになれるヤツじゃなかったよ、絶対。レジーがコイビトなら、どんなことされたってレイと一緒にいるのに。
 ……レジーがコイビトなら?

「ねえ、レイ」

 大粒の涙を掬い上げてレイの顔を覗きこむ。ひく、と鼻を鳴らしてこっちを見てくれたレイの手を手で包んだ。冷たくなっちゃったレイのココロを、レジーの体温で温かくするの。

「トモダチでもコイビトになれる?」
「えっ」
「同じ一番ならコイビトの一番がいい! だってコイビトのほうがきっと、トクベツでしょ?」

 でも温めすぎちゃったみたいで、レイの顔がぶわっと赤くなった。温めたのは手だけなのにおかしいの。でもこれでいい。体が赤くなるのは嬉しい気持ちになったからだって知ってるから。コイビトの話をしていたときのレイもそうだし、今のレジーもそうだもの。

「コイビトになって、もっともっとレジーのこと好きになって。ねっ」

 三度目のショージキっていうんだっけ。もう胸は温かいまま。
 だってレイの顔がいっているもの、レジーがずっと一番だって!


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