Patriot 51

 塔のような山の頂に黄緑色の大きな卵は確かにあった。そして立ちふさがるのは三つ目の頭を持つ怪鳥だ。

「なんだ、貴様ら。どうしてこんなところに人間がいる?それに闇の世界の住人ではないようだな……。」

 呼んでもない来客に即座に気が付いたゲモンはエイト達を睨みつける。

「まあ、いい。こちらも卵を見張るのは飽き飽きしていたところだ。せっかく来てくれたのだ、ラプソーン様の腹心ゲモンが直々に遊んでくれようじゃないか!」

 ゲモンは配下らしきデスターキーと暗黒鳥を呼び出し、エイト達に襲い掛かってきた。





 通常の平地に比べ足場の狭い山頂で、卵に傷つけぬように戦うには立ち回りが肝心だ。相手が遠慮なしに炎を吐いてくる炎は迂闊には避けられない。ただ幸いにもゲモンは単純な性格のようで、ハイネが挑発すればあっさりと誘導される。

「くそ、レティスめ。オレを倒すためにこんな強い人間を光の世界から貴様らを連れてきたのだな!」

 あと一手まで追い詰めれば、憎々しげに吐き捨てる。たかだか人間風情だと侮っていたのだ。
 しかし自ら腹心と名乗るだけあって、相手もただでやられるような玉ではない。

「こうなればヤツのタマゴも道ずれにしてくれるわ!」

 ゲモンはタマゴもろとも自爆したのだ。
 耳がしびれるような爆発音とともに視界は真っ白に染まり、ゲモンの四肢は飛び散った。エイト達はとっさに受け身を取ったから爆風にも巻き込まれなかったものの、頂上に残されたのは無残にも砕け散った卵の殻だけだった。

『ああ、そんな……。私の赤ちゃんが……。』

 大きな音に駆け付けたレティスの悲痛な声が響く。エイト達は彼女の卵を救い出すことができなかったのである。
 我が子を失った母の喪失感は壮絶だ。それでもレティスはエイト達を責めようとはしなかった。それどころか彼らに迷惑をかけたと頭を下げる。

『光の世界から呼び寄せておいて、嫌な思いをさせてしまって申し訳ありません。』

 そんな彼女にエイト達は言えることなど何もなかった。彼女の期待に答えることができなかったのに、力を貸してくれとなど頼むことなどできようか。光の世界まで送り届けると言う彼女にエイト達は頷くことしかできない。
 そんな時だった。幼い少年の声が響いたのは。

『母様、待ってください。』
『ま、まさか、私の赤ちゃん……?』
『そうです、母様。生まれてくることもできず、こんな姿でお話することになってごめんなさい。』

 砕け散った殻の上に現れたのは鳥の形をした金色の光だった。卵の中で生まれる日を待っていた神鳥の子供の霊である。

『ボクを助けるためにここまで来てくれたその人達にお礼がしたくて、こうして姿を現したのです。』
『お礼?しかし、あなたは……。』
『こんなボクだからこそ、できることがあると思うんです。』

 子供にすでに器となる肉体はなく、概念だけの存在だ。しかし反対にいえば肉体さえあれば、彼は空を飛べるはずなのである。

『どうか、皆さんの旅にボクをご一緒させていただけませんか。』
『私からもお願いします。このこが貴方達の力になれるなら、私も救われます。』

 レティスの子供の魂は暖かな光を放つ石になった。

金の雛鳥
prev next

.
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -