Patriot 29

 モグラたちのボスを懲らしめつつ月影のハープを取り返した一行は、改めてパヴァン王の許しを得てイシュマウリのもとへ届けにいった。
 月夜に照らされた砂丘に竪琴の音と音にならぬ姫の歌が響き、幻想の海が広がる。ようやく彼らの船旅が始まったのだ。しかし彼らの旅はこれからが本番である。ドルマゲスは西の大陸に向かったという情報のみで、具体的な彼の行方は分からない。この船旅は長いものになりそうだ。

「ククール、ちょっといいかしら。」

 船は半オート式で誰かが舵を取らなければならないものの、交代ですれば然したる問題ではない。エイトが操縦している間、ハイネはククールに声をかけた。

「急にどうした。俺とポーカーでもしたいのか?」
「イカサマ上等のあなたに勝負をふっかけたりないわよ。回復呪文を教えてほしくって。」

 ドニの町の荒くれと同じ目に合うつもりはないと、からかうククールにハイネはさっさと本題を切り出す。
 ハイネもいくつか呪文を習得しているがどれも強化系だ。基本怪我の手当ては僧侶であるククールに頼っており、以前使者として一人旅していたときも薬草だよりだった。だがここ最近魔物が凶暴化しているのもあり、いざというときを考えると心もとない。そこでハイネも回復呪文を学ぼうと思ったのだ。

「それならエイトでもいいんじゃないか。あいつだって回復呪文は得意だろ。」
「それはそうだけど、ちょっと驚かせてみたいのよ。」
「あんたも子供っぽいことを言うんだな。」
「下の子にはいい顔したいってのが姉心ってものです。」

 ふんすと少々鼻息荒くするハイネに、ククールは思わず苦笑をこぼす。年下なのに大人びた受け答えをすると思いきや、無言の怒りを見せたり、こうして子供じみたプライドをみせたりする。人間いろんな顔をもつとはよく言うけれど。

「あいつはあんたに素直に頼られたほうが喜びそうだがなあ。」
「あら、ククールは私の特訓に付き合うのは嫌なのかしら?」
「誰もそんなこと言っちゃない。仕方ねえから、付き合ってやるよ。」

 こうして合間を縫った二人の特訓ははじまった。







 西の大陸のベルガラックで一行は、ドルマゲスはカジノのオーナーを殺害し北の小島にある遺跡に向かったという情報をえた。エイト達も当然後を追うが、ドルマゲスも無策ではない。遺跡の中に入っても闇に巻かれ外に追い出されてしまう。この闇を払うにはサザンビークにあるという魔法の鏡が必要だ。
 サザンビークはトロデーン城と浅からぬ縁がある国だ。かの王子とミーティア姫の婚儀が決定したというのに、まさかこんな形で訪れる日がこようとは。きっとこんな姿で城を訪ねても、二人がトロデーン王族だと信じてくれないだろう。

「そういえばハイネは城が呪われる直前までサザンビークに伝書を届けにいっていたな……って、露骨に嫌な顔をするでない。」

 サザンビークの話を振られたハイネは明らかに不機嫌な顔をする。王も人のことが言えた身ではないが、姫のこととなると感情がむき出しになるのはお前の悪い癖だとトロデ王が窘める。

「サザンビークは商業が発達しており非常に活気のある国ですし、トロデ王も知っての通り国王は基本善良な方です。し・か・し!問題は肝心のチャゴス王子です!あんな駄目男と結婚するぐらいなら、近衛隊の中から相応しい人を選ぶほうがずっと建設的ですよ!」
「しかし一度決めた婚儀を反故にするのは、王家の威信にも関わるのだ。」
「それは……、そうですけど。」

 肩をいきりあげる彼女の心情は、おそらく娘を嫁にはやらんと言い放つ父親と同じものだろうとトロデ王は判断する。姫に対して過保護な彼女ならあり得る話だ。

「しかし王も直接会えば私と同意見になるはずです。あれと姫が結婚するのは、トロデーンの未来にも関わりますから。」

 それを考慮してもう一度結論を出してほしいとハイネは王に願った。

西の大陸
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