Patriot 23
エイトもいつも姫を気遣っているが、それ以上にハイネは過ぎるぐらい馬の姿になった彼女を気にかけている。そんな彼女から姫を奪ったらどうなるか、火を見るより明らかだ。 ドアをけ破る勢いで瓦礫小屋にとびこむと、盗人の姿はあったが肝心の姫の姿がない。
「あわわわ!許してくれ!あの馬が魔物の姫だとは知らなかったんだ!こ、この通り、馬を打った金は返すから、どうか命は……!」 「貴様、姫を売ったと申すか!」
体を震わせながら金貨の入った袋を差し出す盗人に、トロデ王も激怒してエイトとハイネに殺してしまえと叫ぶ。すっと前に出たのは当然ハイネだ。
ドスッ
盗人の顔面真横にハイネの槍が突き刺さり、盗人は情けない悲鳴をあげる。
「私、拷問は専門外なの。だから早く何処の誰に売ったか教えてくださる?でないと……、うっかり貴方の腕や足の全てを折ってしまうかもしれないわ。」
にっこりと笑いながら言う彼女はまさに悪魔であった。
馬と馬車は闇商人に売り飛ばしたという情報を得てヤンガス達で買い戻そうとしたものの、既に村はずれに住むゲルダという女性に買われたのだという。ヤンガスの昔馴染みの盗賊だ。 その情報を得るや否や相変わらず殺気立った様子で飛び出そうとするハイネの暴走を止めたのは意外にも、いや妥当というべきか、彼女同様殺気立っていたはずのエイトだった。
「これで、少しは落ち着いた?」
あのエイトが仲間、それも身内とはいえ女性の頭を強くはたいたことに周囲は驚愕する。ハイネの様子に怖気ついていた闇商人も、ここでまさかの仲間割れかと目を白黒させている。
「ヤンガス、そのゲルダさんってどんな人?」 「え。ああ、ゲルダは気が強い女でげすが、自分の仲間や物をぞんざいに扱うことはないでがす。」
一連の出来事のあいだに冷静さを取り戻したエイトに、話を突然ふられたヤンガスは戸惑いながらも答える。彼の言う通りならば、ひとまず姫は手荒に扱われていないだろう。
「姉さん、ゲルダさんに会いに行くとしても今日はもう夜だ。魔物も活発化するし、交渉するにしても明日にした方がいい。」
それにこのまま彼女を連れてゲルダの家に行っても、今の彼女では交渉以前にいきなり斬りかかりそうな危うさを持っている。それでは姫の安全が余計に危ぶまれてしまう。
「僕だって姫が心配だ。だけどそれで姉さんや仲間を危険にさらしていいわけじゃない。」 「……。」
そう宥めるもすっかり黙り込んでしまったハイネに、エイトは大きなため息をつく。そっとエイトの手がのばされた。
「……私、貴方のお姉ちゃんなのだけど。」 「知ってる。」
むっとした様子でハイネが訴えるが、エイトは彼女の頭の上にのせた手のひらを下ろそうとしない。
「なんだか気が抜けたわ。……いくらなんでも頭に血がのぼりすぎたわね、ごめんなさい。」
強張った顔もようやくいつものものになった彼女は、エイトの手を掴んでからそう謝罪したのだった。
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