Patriot 21

 願いの丘の頂上にたどり着くころには、丁度満月が大きく輝く時間帯だった。おとぎ話通りしばらく待つこと十数分、月明りに照らされた格子の影が淡い光を放ち始めた。恐る恐る手を伸ばすと、どういうことだろう。エイト達は扉に吸い込まれ、見知らぬ泉の洞窟にたっていた。宙に浮く岩の道は青と白の砦に繋がっている。

「私はイシュマウリ。月の世界へようこそ、お客人。」

 砦の中は様々な楽器が静かに音を奏でており、その中心にいる青い髪の男がエイト達を出迎えた。
 彼が手にもったハープを鳴らすとエイトの靴が不思議な光を放つ。物に宿る記憶を通してエイト達の目的を読み取ったのだ。月の光には夢や記憶を形にする力を持つ。

「なるほど、アスカンタの王が生きながら死者に会いたいと。月の光をもっても死者を生き返らすことはできないが、君たちの力にはなれるだろう。」

 イシュマウリを連れて月の世界を出ると、そこは願いの丘ではなくアスカンタ城だった。彼の力によるものなのか、警備をしていた兵士は夢の世界に落ちている。
 玉座で嘆くパヴァン王のためにイシュマウリが再びハープを奏でる。玉座がかつてここで過ごしていた王妃の影を映し始めた。幻影のシセルはどこまでも真っすぐな女性で、王と国を陰から支えていた存在だったのだとわかる。

「シセル、どうして君はどうしてそんなに強いんだい。」
『お母さまがいるからよ。私も昔はとても弱虫でいつもお母さまに励まされたわ。だからお母さまが亡くなったときはとても悲しかった。でもね、私がまた泣き虫に戻ったら本当にお母さまはいなくなってしまう。最初からいなかったことになってしまうわ。』

 パヴァン王の問いにシセル王妃は胸に手をあてそう語る。

『だから、励まされた言葉、お母さまが示す通りに頑張ろうって決めたの。そうすればお母さまはいつまでも私の中で生きてくださるわ。』

 シセル王妃の幻がパヴァン王をテラスに誘いだす。朝日に照らされるアスカンタはとても美しいものだった。

「覚えているよ。君が教えてくれたこと、全て僕の中に生きてる。ようやく、僕も目が覚めた。」

 パヴァン王は彼と城に記憶にようやく救われたのだ。







 今回の件のお礼にとパヴァン王に歓待を受けたエイト達であったが、魔物と馬の姿になったトロデ王とミーティアは宴に参加もできず外で待ちぼうけであった。

「ええのう、お前らは。盛大に持て成されて、楽しそうじゃのう。」

 トランペッタのときからこのような待遇にトロデ王はすっかり拗ねていた。確かに旅に出てから二人は気分転換らしいことができていない。そこでヤンガスが提案したのは彼の故郷、パルミドに寄らないかというものだった。

「小汚ねえ町ですが、どんな余所者でも受け入れる街なんでさあ。」

 そこならきっとトロデ王も安心して中に入れるだろうと言う。それにまだドルマゲスの情報は得ていないのだ。

「あの町にゃ、あっし馴染みの優秀な情報屋がいるんで野郎の足取りもきっと掴めやすでい。」

 一石二鳥だとエイト達はヤンガスの故郷、パルミドに向かうことになった。

幻想の奇跡
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