Patriot 20

 やっとこさ辿りついたアスカンタは元は白く美しい街だったのだろう。それが黒い布に覆われ、道行く人の表情は暗い。なんでも2年前に王妃が亡くなってからずっと国中が喪に服しているらしい。これではドルマゲスどころではなさそうだ。
 エイトの提案で一行はパヴァン王に会いにいくこととなったが、王はずっと部屋から出ず誰にも会わないのだという。毎夜玉座で王妃に会いたいと嘆いている彼には誰の言葉も届かない。その悲しみが本物だとしても、はっきり言って異常だ。

「もし死んだ人と会えるなら……。シセル王妃が再び王様の前に現れたら、王様も元気になってくださるのに。」

 喪服に身を包んだ城の小間使いの少女、サラはそう呟く。

「そういえば祖母から聞いたことがあるんです。どんな願いも叶えるお話を。」

 ふと彼女は思い出したようにそういうが、それが具体的にどんなお話だったかまでは覚えていないらしい。

「旅のお方、私はこの城から離れることができません。どうか私の祖母から願いを叶える昔話のことを詳しく聞いてくれませんか。ただのおとぎ話かもしれませんが、もしかしたら王様の願いを叶えられるかもしれません。」

 彼女の祖母の家は道中にあった川辺の教会の近くにあるそうだ。





 サラの祖母から聞かされた昔話は、教会の南側にある丘の上で満月の夜にじっと待つと不思議な世界へ繋がる扉が開くというものだった。丁度今晩が満月である。

「不思議な世界、か。妖精の国にでも繋がっているかしら。」
「昔、姫とそんな話で盛り上がったこともあったっけ。」

 丘を登る途中、ハイネがそうこぼせばエイトも昔のことを思い出すように返す。
 今ではお伽噺を聞くことすら少なくなったが、幼少期は夢の世界に胸を躍らせたものである。

「そうそう。それで私が妖精の国に繋がる階段を探そうって、二人を連れて森に飛び出したこともあったわ。」
「その結果ジョセフさんにこぴっどく怒られたけど。」
「あの時は二人そろって正座させられたわね。」

 姫を危険なことに巻き込んだのはもちろん、周囲にどれだけ心配かけたのかこんこんと説教されたものだ。田舎なのもありトロデーン周辺は比較的安全だったが、万が一のことを考えれば命を落としていた可能性もあるのだから当然だ。

「二人とも子供の頃って案外腕白だったんだ。」

 そんなエイトとハイネの思い出話にゼシカは少し意外だと反応する。今の穏やかな気質からは想像しにくい。

「特にハイネなんて"危ないわ!"って反対する側っぽいのに。」
「子供だもの、好奇心の方が勝るわよ。勉強だけでは分からないことも多いでしょう。」

 確かに今のハイネなら、わざわざ子供たちだけで城を抜け出そうなんて言うわけがない。それでもあの時のことは後悔してないし、それはそれで得難い経験をしたと思っている。経験は成長だ。そして成長の機会を奪うのは罪である。

「そういう意味ではこの旅も悪くないものと思っているのよ。」

 守るだけが人のためではないと、本当は彼女も知っている。

おとぎの国
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