光陰世界 06
ナプナーガ密林を抜け、イシの村に立ち寄ればそこはひどい惨状になっていた。人の姿はどこにもなく、教会を除いた家々は軒並み破壊されていた。元ののどかな風景を知らないカミュも絶句する光景だ。勇者を育てた村というだけで、ここまでするなど異常である。 唯一幸運だったと言えるのは死体が何処にもないことである。もちろん既に埋葬されている可能性はあるが、近辺に土を掘り起こしたような跡はどこにもない。となればまだ村人は生きている可能性は高いだろう。
「となればどこかに連行されたって考えるのが妥当かな。」 「随分と落ち着いてるんだな。」 「そうでなきゃやってられないでしょ。」
カミュに淡々と返すレイナだが、ショックを受けているのは彼女も同じだ。少しでも希望があるのならそれに期待したいのが人間の心理だろう。
「これじゃあどっちが悪魔だか分からないよ。」
いったい何がデルカタール王をそこまで駆り立てるのか、今のレイナにはさっぱり分からなかった。
イシの大滝の三角岩のすぐそばに、小箱は埋まっていた。中身は二通の手紙と青い石で、イレブンがユグノア王子であること、魔法の石をもって旅立ちの祠を訪れるよう綴られていた。そして人を恨まないでほしいとも。 イレブンの義理の祖父の遺言に従い、3人は旅立ちの祠を目指すことにしたが、その前にやらねばならぬことがある。今度こそ赤色のオーブを取り戻しにデルカタール神殿に足を進めた。 カミュはしきりにレイナを変人だの奇人だとのと評価するが、錬金術師としての本分を果たしているだけの彼女としては心外だ。彼女からしてみればカミュも十分に変わり者である。旧知の仲でもないのに王に悪魔の子だと狙われている人間に手を貸すなど物好きぐらいだ。 それにカミュは二人に隠し事をしている。カミュが勇者であるイレブンを助ける理由、牢屋で呟いた運命の意味、そして彼が必死に取り戻そうとしているオーブがどんなものなのか。それらを尋ねてもはぐらかすばかりで明確な答えは返ってこない。 レイナも今更カミュが悪い人ではないかと疑いたくない。理由は何であれデルカタールで助けてくれたのは事実だし、デクのように彼を純粋に慕っている人もいる。そんな人に裏切られたら流石に心が折れそうだ。今の状況では頼れる人が少ないから尚更。 いくら能天気に振る舞っていっても彼女も人の子。人並みに不安はあるし、信じたくても消化しきれぬ疑問はしこりをのこす。
「大丈夫だよ、レイナ。」
そんな彼女を安心させるように背中を叩いたのはイレブンだ。
「何が?」 「カミュのこと。僕は彼なら信じられるって思うよ。」
その声は透き通るもので、迷いの色は一切見られない。どうやったらこんなに真っすぐ人を信じられる人間になれるのか。レイナはもちろん、当のカミュも不思議に思う。
「……ま、イレブンの言う通りか。疑心暗鬼なんて私らしくないし。」
それに疑ってどうしようもないのだ。疑ってごめんと謝るレイナにカミュは自衛するならそれぐらいがいいと笑うのだった。
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