それじゃあ土下座でも 番外編



*こちらは短編小説の「それじゃあ土下座でも」の番外編です。是非本編からどうぞ*



『お前明日オフだろ?今日仕事終わったらお前んとこ行くから覚悟して待っとけ』
「はあぁ?おっ前勝手だ…ってオイ!切るかフツー?!…ったく……」

花の金曜日の昼休み。
突然かかってきた恋人からの電話は、怒涛の如く相手の用件のみ吐き出した形で颯爽と切れやがった。



それじゃあ土下座でも
        リクエスト番外編2



「おっ…せーよお前残業か?ならメールかなんかしてくれりゃいいのに冷たいねぇ昨今の若者はさぁ」
「俺もういい年こいてんだけどっつかお前も同い年だろーがこのオヤジ!残業じゃなくて酒とか買ってたんだっつのお前がこんな早く来るなんて思ってもみねーよ!」

コンビニ袋片手に足どりも軽くアパートの階段をトントンのぼっていると、俺んちのドアの前にしゃがみ込むスーツ姿が遠目から確認できて、慌てて俺は鍵を開けながら呑気に俺の後ろについてくるコイツへ盛大にツッコんだ。

っつかこいつ待機早すぎだろ。どんだけ早いのよ。俺だって仕事終わってソッコーでコンビニ寄って帰ったのにそれより早いってどゆこと。お前の会社のが全然遠いはずんですけど。
…まぁ、飼い主に捨てられた犬みたいにしょんぼりと俺を待つこいつの画ヅラを想像したら思ったより萌えたことは秘密だけど。

「は〜もう夏だよな〜!七時過ぎてんのにまだ明るいもん…っと、おっじゃましま〜す!」

そーいや昼にきた電話によると“覚悟して待っとけ”だそうだが、俺は何を覚悟すりゃあいいんだろうか。
テンション高くどかどかとうちの敷居を跨いでソファーに我が物顔で座るヤツをじと目で追いながら、俺もコンビニ袋の中の物を手早く冷蔵庫にしまって缶ビール二本を手にソファーへと向かう。

「うおサーンキュ、じゃかんぱーい!」
「おう、つか腹減ったな、ピザでもとるか」
「お〜いいねぇ!」


俺達は次の日が休みという安息の金曜の名の元、出前をとって酒の缶をたらふく空けて、それはそれは楽しく飲み明かした。



「…っておい!おっ前今日俺んち来たのはこうやってだらだら飲んだり食ったりしたかっただけか?あぁ?なんかお前が覚悟しとけとか言うからこちとら午後の会議とかちょっと気ぃ削がれて仕方なかったんですけど!」

本来の目的を見失いそうになった俺は、缶ビールをがん、とテーブルにつきながら声を張り上げた。

「えぇ〜?っあぁ、ははっ、そんなこと言ったなぁ。そーだそーだ忘れてたけどお前に報告があったんだわ、俺」
「なっ…なんだよ」

ヤツにしては珍しくしたり顔で俺をじっと見据えてきたから、俺も負けじと睨み返してやる。
取って付けたような含み笑いを浮かべながら、奴はゆっくりと口を開いた。

「こん前お前が色々調べとけって言ってただろ、だからあれからゲイビとかアナルセックスとか超調べた。まーじすげぇ世界だよな。俺全っ然知らなかったわ。や、聞いたことくらいはあっけどさ。ケツとか気持ちいのかね?ま〜よく分からんけど、とりあえずゲイビ見て俺吐きそうになったんだよな、はは」
「……は?……え、…な…」

つらつらとあいつの口から出た言葉はどれも見事に衝撃的だったわけだが、でも何より俺の心をえぐったのは最後の一言。

なに、色々調べてゲイビ見て気持ちわりーからやっぱ俺とのこともナシ、って、そういうことなのか。覚悟しとけってそのことか。俺今日お前をフるから覚悟しとけって、そういう意味だったのかよこんちくしょー…ふざけんじゃねーよいい年こいて失恋かよ…あーもう情けねぇな俺……

「え、なに、おまっ…何その顔」

悪気のなさそうなキョトンとした目が俺を見つめる。

「なっ…んでもねーよ……何、今日話したかったのってそれか?土下座までして俺のこと好きとか言ってたくせにいざ土壇場になってそーゆーこと想像したら萎えたから俺ともできねぇって、そゆことでいい?んだよな?…あーやべ、もうお前の顔見れねぇわ…どんだけ惨めオレ……」

魂が抜けたみたいに力無く肩を落とす。
奴は一瞬目を真ん丸くした後、ぶはっ!と肩を揺らしだした。

「…っは?いやいやいやいや何言ってんのお前バカだろ?なあバカだろ?俺まだ話の途中なんだけどなに先走ってそんな顔してんの?世界の終わりみてーなツラしやがって可愛いなっつかお前案外俺のこと好きな」
「っはぁ?なんだよ意味分かんねぇ…つかなに?話まだあんのかよ早く言えよもう俺ちょっと堪えらんね…っむ!!」

俯きながら口にした言葉を最後まで言い終わる前にそこを塞がれた。もちろんあいつの唇で。

「っは…っ、な、なんだよいきなし…お前こんなタイプじゃねーだろ…つか話の続きしろよ、なあ」

奴の肩口を押して引き離しながら距離をとる。すると、些か口ごもりながら奴は頭をぽりぽりかいて話し始めた。

「や、わり。なんか可愛かったからついした。はは。や〜…なんか、さ。ゲイビ見て気持ち悪かったのはマジ話だけど、それは知らん奴の…っつかお前の!…じゃ…ない人の裸とかちんことかケツとか見ても興奮なんかしねーし逆にキモイって意味で、お前以外に興味わかねんだけどってことが言いたかったっつか…な!なに泣いてんのお前!」
「〜…っ!るせぇよバカ!泣いてねぇ!つか言葉が足りねんだよハゲ!あんな言い方したら誰だってフられんの覚悟すっだろーが〜…っ」

目の前の能天気で言葉足らずなアホ彼氏の胸をぼかぼか殴る。黙って俺からの攻撃を受ける奴は、暫くした後もういいだろと俺をそっと抱き寄せた。

「あ〜…悪い。なんかお前年甲斐もなく可愛いな。あ〜もう喋んなっつの」

ぽんぽんと背中を叩かれながら優しい声色が降ってくる。これ以上喋ると俺も余計なことを口走りそうだから素直に口を閉じてやった。



「……ってことでさ、俺はこのままコトをいたしたいわけなんだけど〜…」
「……。」
「……実は準備も万端だったりして」
「……はッ?!」
「や〜ネットで調べたらセックスっつっても男同士だと色々前準備が必要とか書いてあってさ、あ〜前にお前が言ってたのこのことかーと思って試しにやってみた」
「……お前…っ」


(しょーがねぇから今日はお前の頑張りに免じて許してやる、か)


俺から仕掛けたキスを皮切りに、ソファーになだれ込むようにして男二人分の影が動いた。



* * *



「やっべ……よかった……な、お前は?気持ちよかった?」
「あ…あー、う、ん。よかった」
「そっかそっか。な、次は俺に挿れさせろよ?」
「っは?何言っ」
「いやいや今日俺頑張ったしょ?大好きなお前のためにここまでしたんだから次は俺に花持たせてくれてもいいんじゃねぇの?」
「う"っ……か、考えとく」
「ん、ならいい」

当初より立場が逆転してないか?と危惧する俺の心配は後日、半ば無理矢理にケツを掘られかけるという出来事によって見事当たることになるのだが、この時の俺はまだ知らない――



---fin---




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