頭上から鉄格子の擦れる重たい音がする。部屋と呼ぶには粗末で無骨な空間。陽の差さぬその暗闇の中で、壁に寄り掛かっていたベルベットはゆっくりと瞼を開けた。眠っていたわけではない。ただ神経を研ぎ澄ませてその時を待っていた。

――また、食事の時間が始まる。
ベルベットがこの牢獄に閉じ込められてから既に三月が経過していた。最初のうちは信頼していた義兄への怨槎の叫びをまるで獣のように上げ、かと思うと時折乙女らしくか弱く啜り泣き――自らの現状に対して動揺や憤り、哀しみを不安定に揺らがせていたベルベットだったが、既に理解を終えその肝と瞳は据わっている。家族として接し、敬愛していた義兄。あれは幻であると。
唯一無二の、何よりも誰よりも大切な弟を奪ったあの男へ膨れ上がり続ける憎しみを。

「ギャッ」

それを彼女に教えたのはこうして毎日のように「上」から落とされてくる業魔の存在だった。
高い天井には四角の鉄格子がはめ込まれていて、そこから業魔が放り込まれる。弟を失ったあの日から創り変えられた彼女の左腕は業魔を喰らう。そしてその業魔が今の彼女に与えられる唯一の食料だった。
ベルベットは立ち上がり、左腕を払うように振るった。たちまち左腕は彼女の身の丈ほどの大きさの鍵爪へと変貌する。マグマのように赤黒く脈打つ表面は、内に秘める禍々しさを訴えていた。
いつものように、この左腕で。
いつものように、業魔を押さえつけ。
いつものように、喰らえばいい。
生きるため。吐きそうなほど濃密な生臭い血の臭いも、生温かく気色悪い生肉の感触も、全てはアルトリウスを討つために。
憎しみの灯る瞳で、ベルベットは業魔に向かい、左手で襲い掛かる。

「いっ…たぁ〜!」

鋭い切っ先は、業魔に届く直前で止まった。














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