01.プロローグ


自分が住むアパートまであともう少し。通いなれた道を鼻歌混じりに歩いてたら急に後ろから誰かに覆い被された。抱き付かれた、とかそんな優しいものではない。だけど急に覆い被される記憶の無い私はそのまま首を後ろへ向ける。向けたそこにいたのは、ぼさぼさ茶髪の不健康そうな顔をした知らない男で…、ううん違う。私、彼を知ってる。ぱさぱさの茶髪も線の細い顔も知ってるけど、彼の髪はこんなにもぼさぼさだったかな、顔もこんなに痩せ細ってたかな、どうして?なに?どうしたの?やめて、とも、離して、とも言えなくてただただ驚くのだけどその人は無遠慮に私の服の中に手を入れて乱暴に下着を下げようとしている。その時、私はやっと声を上げることができたのだ。彼はその声に驚いたのかわからないけど慌てて私から突き飛ばすようにして手を離してそこの角を走って逃げていった。見えなくなった彼の後ろ姿を私はコンクリの上でただただ見てることしかできなくて、どくどくと鳴る心臓を落ち着かせた頃にやっと、自分が危ない目に合っていたことに気付いた。そして不幸中の幸いなのかわからないけど、それが未遂に終わったことに安堵して、下着をずり下ろされそうになった時についた腰の赤い引っ掻き傷を抑えた。




「はるちゃん…、」




すぐに治ると思っていたその傷は、まだ赤く残っている。



主よ、
人の望みの喜びよ


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