please name, my love
あれが欲しいとかこれが欲しいとか、欲しい物はあまり口に出さないし、欲しいと思っても自分で手に入れるタイプの人だから、先生の誕生日プレゼントは事前までお金を貯めて、欲しいものを聞いてそれをプレゼントしようと私は考えた。
「先生、誕生日何が欲しい?」
私は淹れたてのコーヒーをソファに座る先生に手渡して、そのソファの肘掛けに顎を乗せるようにして床にぺたりと座った。そんな私に先生はむんずと鼻を摘まんで「先生、じゃねぇだろ。」とお決まりの台詞を言ってくれた。私がすぐに「あ…、ゆ、ユウ…。」と言い直せばユウは小さく笑って私の頭を撫でてくれた。髪をすくように指先に髪を通して優しく撫でてくれるその手は大きくて、温かくて、綺麗で、片想いしている時から大好き。私は先生の手の感触にうっとりしながらも、もう一度聞き直す。
「で、ユウは誕生日何が欲しい?」
私ね、ユウの誕生日のために結構お金貯めたから、ちょっと高いやつでも大丈夫だよ。と言えばユウは撫でるのをやめて少し眉を寄せた。
「いらねぇ。」
「え…っ!?」
「俺はお前に俺のためにとかで金を使って欲しくないし、使わせる気はない。」
「な、なんでっ…!だって誕生日だよ?」
一年に一度の日だし、おめでたい日だし、何より恋人同士の大切な日だよ!ユウは気にしないかもだけど…、私はやっぱり気にするし、大事なイベントっていうか日なんですけどっ。と言えばユウはコーヒーを机に置いて、肘掛けに肘をついてすぐ下の私を見下ろした。
「俺は社会人でお前は学生だろ。もっと言えば俺は教師でお前は生徒。教師が生徒から金巻き上げてどうすんだよ。」
……出た。出たよ出たよ。すぐに何かあればそう言う。「先生って言うな」って言う割には、先生が一番「先生」にこだわってるじゃない。私はただ、先生の彼女として、生まれてきてくれてありがとう、おめでとう、って伝えたいだけなのに…。でも、そんな私の気持ちなんて、先生には届かないんだ…。はぁ、と私はそんな意味を込めて小さく息を漏らした。すると先生はおもむろに腕を私へと伸ばして、床に座る私を抱き上げて(わわっ)膝の上に乗せてくれた。(わ、私、重たくないかな?)
「せ、せんせっ」
か、顔近いっ!
まるでキス一歩手前の距離に私の心臓は爆発寸前。破裂して粉々になってしまいそうな程心拍数が上がった。それほど、先生の顔が近い。先生の綺麗な顔は、私の顔すれすれにあって、少し掠れた、耳をとろとろに溶かすような甘くて低い先生の声はいつも、私の思考を鈍らせるのだ。
「ナマエ、返事。」
「あ…、は、………はぃ…。」
「ん。」
良く出来ました、と言わんばかりのキスは甘い、甘い甘いマシュマロのようにふわふわしてて、ぴくり、と私が先生から少し逃げようとすると頭裏を大きな手で抑えられて、逃げられないそのキスに、私はつい幸せな気分になってしまう。(実際、先生の唇は柔らかくて、それが私の唇と合わさっていると考えると幸せ以外の何物でもない。)何度も何度も唇を啄むようなキスをされて、緊張と恥ずかしさと幸せで不満げに出した溜め息は甘い吐息へと変わった。最後に唇を指の腹で撫でられて、私はすぐそこにある先生の瞳に吸い込まれた。どんな変な顔をしていたかわからないけど(だって、幸せでとろけてしまいそう。)、先生は私の顔を見て満足そうに笑って、言った。
「空けてくれればいい。」
「……え…?」
「その日の夜、俺のために空けてくれればそれでいい。」
「そ、それだけで、いいの…?」
むしろその日は当たり前のように空けていた、というかユウ以外の用事なんて弾き飛ばすようにしていたし…。それを、空けてくれればいい、なんて…。
「それでいい。」
ぎゅ、と腰に回された先生の腕が私と先生を更に密着させる。先生の吐息を感じる程近い距離に、私は頭のくらくらが止まらなくなった。わかった、わかったから、その日は空けとく、むしろ空いてるから、だから私の心臓が爆発する前に腕を離して、お願いと言いたいのに、私の言葉は先生の言葉に頷いた後、またあのとろけるようなキスでとろとろに溶けて消えてしまった。
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