保健室での秘め事



私は熱を出した。心当たりは、ある。

昨日、先生の家行った時だ。帰る時。雨降りそうだから送る、と言ってくれた先生の言葉を聞かずに帰ったのだ。(だっていつも送ってくれるから、たまには一人で帰らなくちゃと思ったんだ。)案の定帰りは土砂降り。しかもその後風呂に入らずベッドでぼーっとしてたら寝てた。起きたら布団は気持ち悪いしお母さんには怒られるし頭はなんだかぐわんぐわんするし最悪だった。制服は予備のやつ引きずり出してのろのろ着替えてもたもた登校した。なんだか今日は気持ち悪いなーと思って授業うけてたら5時間目にそのピークがきて私はとうとう保健室のドアを叩いたのだ。そして熱があって(あー先生にバレたら怒られそうだ)この保健室の白くて固いベッドに寝ているのだ。とっくに6時間目は終わっていて皆下校してる。私は今日バイトなくて良かったなんて思いながらまだダルいので寝ているところです。

寝ていたのです。

寝ていたのですが開いたカーテンの音に私は我が目を疑いました。


「……は…………?」


意味がわからなかった。
だってベッドのすぐ横に先生が突っ立って呆れた目で私を見下ろしてたんだよ。先生っつっても保健室の先生じゃないよ。あの人だよ。あの人。





神田先生





「…阿呆。何やってんだよ。」

「いや、こっちのセリフ…。」


ユウ…、先生何やってんの、と言いながら体を起こそうとすると先生の手がやんわり私を押して寝かせようとする。


「寝てろ。熱あんだろ。」


あるけど、あるけどさ。先生何やってるんですか。なんで他校の先生がいるんですか。と目で訴えている私を余所に先生は私の首筋にするりと手を這わせた。一瞬首絞められんのかな、なんて思ったけど先生は私の熱を計っただけだった。


「熱いな、完璧風邪か。どうせ帰ったまんま寝たんだろ。」


うん、と頷けば溜め息が同時に聞こえる。


「だから送るっつったんだ。」

「ちょっ、先生ここ保健室…」


そんな会話…と続けようとして体を起こすけどやっぱり寝かされた。


「保健室の先生は職員室行った。」


誰もいねぇ。の言葉に安心した。よかった。と安堵の息をもらし、そして一番気になってる事を先生に聞いた。


「で、先生なんでここにいるの。」

「部活の打ち合わせ。今度合同稽古するから。」


そんな話聞いてないよ、と唇を尖らせたけど先生の思惑に気が付いてすぐに笑った。先生、私を驚かせようとしたんだ。


「残念だったね、先生。私驚かそうとしたんでしょ。」


そう言えば先生は苦笑して私の頭を撫でた。(あ、気持ちい…)私はその手を取って自分の指と先生の指を交差させた。一本一本絡んでゆく感じが私をひどく幸せな気分にし、それと同時に小さな独占欲が私を襲う。


「…皆に会った?」

「泣かれた。」

「あはは。」


先生アイドルみたい。いや、アイドルだったもんなぁ。でももう皆のアイドルじゃないよ。と言い張りたい。先生は私のだよ。私と付き合ってるんだよ。キスもしたんだよ。と言いたいけど言えない。私達はこんな白いカーテンに隠れなければ指を繋ぐこともできない切ない関係。でもそれ以上に危険で甘露な関係。


「神田先生、まだいらっしゃいますか?」


保健室の先生だ。
ドアを開けた音の後すぐに聞こえてきた。私は慌てて先生の手を離したけど先生の手は私の手を追いかけて掴んだ。それから白いベッドに腰掛けて片方の手で私の頬を撫でた。ちょ、先生!保健室の先生そこにいるんだよっ!あぶないって!


「はい。」


慌てた様子のない声色に見上げれば意地悪そうに笑う顔。(うっわ。先生最高に楽しそうな顔してるし。)


「良かった。私まだ用事があるからこの部屋にいてほしいのだけどいいかしら。」

「かまいませんよ。」


カーテン越しから聞こえる保健室の先生の声。そしてカーテン越しに答える先生。


「ごめんなさい、あと10分したら戻るから。」


本当にごめんなさいね、の言葉を最後に保健室の先生の声は聞こえなくなった。
ばたんと閉まるドアの音。
くすりと笑う先生の吐息。


「2人っきり、だな。」

「あ、の、…先生?」

「あと10分もある。」


高そうな腕時計をチラリと見る先生。絶体絶命な感じがして体を起こすけどやっぱり寝かされたというより押し倒される。


「今、」


ぎしりと軋む固いベッドの音。


「俺の好意を受け取らず雨の中帰って熱出している生徒がいるんだが。」

「そ、それは、その生徒は可哀想ですね、熱だなんて…。」


繋いだ手をベッドに縫い付けるようにして先生が私の方へと身を乗り出す。もう片方の手も同じ様にすれば先程よりも先生との距離が近くなる。


「教師として仕置きが必要だと思わないか?」

「思わないです。まったく。はい。」


そうハッキリ言えば先生は一瞬つまらなそうな顔をして、すぐに鼻で笑った。


「お前、誰に口きいてんだよ。」

「お、俺さ…いえ、神田先生にです。」


俺様神田先生と言おうとした口を慌てて言い直して猟奇的な目をした先生を見つめれば、先生はそりゃ最高に、楽しそうに、意地悪そうに笑って、私の額にキスをした。


「先生、じゃないだろ?」


保健室でのめ事


さっき教師って言ったのはドコのどいつ!?


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