04




***.




「あ?」


上質な赤の布生地に金縁の猫足ソファに腰掛け神田は眉を寄せた。すらりと伸びた長い足を組みなおし、肘掛に肘杖を置き、その上に頬を置いた。無駄な肉などない顎のラインに形の良い薄い唇、すっと通った鼻筋に涼しげな黒真珠の瞳。同色の髪は長く、一本に結い上げられている。100の女がいたら120の女が迷いなく美男子と答えるだろう彼はこの国の王子だった。


「もう一度言え、モヤシ。」

「はい、ですから今度王子の帰国祝いに舞踏会を城で開きます。年頃の娘は全員参加ですから王子はその中で結婚相手を見つけてください。王様命令です。あと僕はモヤシじゃなくてアレンですこの野郎。」

「王様も踏み切ったさー」


王子とは思えない程ドスのきいた睨みをした神田の前に立つのは白銀の髪をした少年、アレンだ。まだ声変わりも終えていない中性的な顔をした少年だが、れっきとした神田の臣下だ。そして神田のソファ後ろに立つのは赤毛の青年、ラビ。神田とは違い愛想のいい顔を常に浮かべ、どこか軸無さげに立っている。


「誰がそんな合同コンパみたいな舞踏会に出席するか!」

「おっ!王子が合コンって言葉知ってるなんて!」

「合コンじゃありませんよ、ハーレムです。良かったですね王子、酒池肉林。」


にっこりと笑ったアレンに神田は口端を引き攣らせる。一回この白髪全部引っこ抜いてやろうかと腰の愛刀に手を伸ばしたがアレンは気にせず続けた。というよりそんな様子の王子に釘を刺すように続けた。


「元はと言えば王子のせいですよ、この舞踏会は。」

「あ?」

「一国の王子たるもの20になっても結婚相手も婚約相手も居ないだなんて、お世継ぎの事も考えください。」

「………わかってる。」

「わかってないからこんな事になっているんでしょう?」

「…………………。」

「まぁまぁ、アレン。」


静かに唸った神田にラビが顔を出す。なかなか色恋の話をしない神田を二年前から支えてきているのだ。彼は誰よりも将来の事を考えているし、この状況が良くない事もきちんと理解している。それでも彼は彼なりに思い留まる所があるのだ。そう、彼が20になっても結婚を考えないのは、


「王子、やっぱり蓮の女の子が忘れられない?」

「…蓮の……あぁ。」


ラビの言葉にアレンは小さく頷いて神田が小さく舌を打った。
王子には忘れられない女の子がいた。城の中庭の噴水に腰掛けていた、何処かのお嬢様。互いに想いを寄せ合っていたのは植木の陰でこっそり見ていたラビにもわかったのだが、どうも奥手な王子と少し抜けているお嬢様はなかなか距離の縮まらない少女漫画のようだった。そんな中、王子へ縁談の話が上がって一体どうなるのかと見守っていれば王子はその子に蓮の花とキスを贈っただけで外国に留学。二年後帰ってくれば女の子はもちろんというか何というか、もう噴水には腰掛けてはいなくて、何処かに消えていた。


「もしかすると蓮の子、舞踏会に来るかもしれないさ?」

「…誰もあいつの話なんてしてねぇ。」

「蓮の花渡しておいて何言ってるんさ。」

「花は枯れるものだ。」


俺の事なんて忘れてる、と小さく言った神田にアレンは腕を組んだ。


「どうしてその時一発やっておかなかったんですか?」

「アレーン。その顔に見合うようなセリフを喋ってくれー。」

「既成事実を作ればこっちのものです。」

「頼むからあの少年黙らせてー。」


それにですね、とまだ続けるアレンに神田はこの話は終わりだと言わんばかりにソファから立ち上がった。そして二人に背を向け扉に向かった。背中に「王子、」と呼び止めるラビの声が聞こえたがもう嫌だ。結婚の話も、あいつの話も。


「俺は舞踏会に出席しねぇ。その舞踏会は中止にしろ。」

「無理です。だって明日が舞踏会ですから。」

「はぁ!?」

「すみません、王子の名前で招待状書いちゃいました。テヘッ」

「テヘじゃねぇよこのクソモヤシィィィイイイイ!!!!」


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