ウエスタンランド・シューティングギャラリー
「あ、先生待って。」
目に入ったものに私は足を止めて、そのちょっと先を歩く先生の服の端を摘まめば先生がゆっくり振り返った。そして人差し指が私の額をとんと叩く。(…あう。)
「ここで先生はやめろ。」
と言われて私は慌てて口を抑えた。…て、遅いか。ついクセで先生を先生って…あぁ違う、ユウを先生って言ってしまうけど、それは付き合ってから禁止になってる前に、この場で言ったら変な目で見られるかも。と辺りを見回したけど誰も気にしてないようだ。良かった、と私は今日のユウとのデート先であるディズニーランドでほっと胸を下ろした。
「で、どうしたんだよ。」
「あのね、あれやりたいの。」
私が指差したのはパンパンと乾いた音が響く射的。男の子とお父さんが多いそのアトラクションにユウは意外そうに私を見た。
「あ、あのね、あれ全発あてるとバッチもらえるの。」
「あぁ…。」
そういうことか、とユウは納得したように頷いた。そう、バッチ。ここの銀バッチが欲しいの。射的とかそういうの、あまりやんないけど、ここのバッチが欲しい。だってだってここのバッチ私持ってないんだもん。それに私の大好きなキャラクターの銀バッチ!ユウはそれを知ってるし、知ってるから人が多いのを知ってでも(ユウは人混みが嫌いなの)ここに連れてきてくれた。だからすぐに了承してくれた。やったー!がんばるぞー!
並べば順番は思ったより早く回ってきた。
「…台とか貸してもらうか?」
「台なくても大丈夫だもんっ!」
フッと笑ったユウの腕を叩いて私は射的の前に立った。ユウはその後ろで腕を組んでニヤニヤ楽しそうに私を見てた。む、むう…っ!私はお金を入れて、ライフルを構える。ライフルと的には赤いセンサーがついててそこを狙うのだ。的は色々ある。狙う場所は西部の酒場のようなセットの中、走るネズミから酒瓶、机の上にあるスロット、手前にあるツボ。私は着実確実にバッチが欲しいので手前のツボ狙い。……のはずなんだけど。
「…相変わらず、重っ……」
「持ち上がらないんでどうすんだよ。」
「うう〜〜」
ライフルが思ったより重い。いつもこれが苦戦する。ちょっと重くて手元が狂うのだ。するとユウがライフルを掛けてあった位置に戻した。う?なに?持ち上がらないならやるなってこと?とユウを見上げれば軽く頭を叩かれた。
「このまま狙ってもいいんだろ。だったらこっちの方が揺れない。」
「あ…なるほど。」
確かに、ライフルが掛かってるところに置けば安定がいいな。そう構え直すとユウが後ろから「…普通気付くだろ。」と笑ってた。もう〜〜〜っ!うるさいなっ…!
コツはなんとなくわかる。
「手前にあるくぼみと、奥にあるくぼみ、的の赤いセンサーの中にある黒っぽいとこを一直線に並べて撃つの。」
「ほお…」
くぼみと的を合わせて、撃つ!
パリーン!
とツボが倒れて割れた音がした。
「よし!」
「おお…。」
少し驚いたようなユウの顔に私はちょっと自慢気に笑った。
「どう?」
「あと9発あんだろ。ほら、次も当ててみろ。」
「……む。」
でもユウはすぐにまた余裕そうな、私をからかうような目をした。むぅ〜〜〜っ。ぜ、絶対(今日こそ)全発当ててバッチもらうんだから!そしてユウを驚かすんだからっ!(意外な一面的な意味で!)
同じ的を狙えばいい。さっきと同じ姿勢で。そう、ここだ。
パリーン!
「あと8発だな。」
「このまま撃ち続ければいいんだもん。」
そう、このまま、同じ体勢のまま、撃てばいい!
「…………………。」
「…………………。」
「……………あれ?」
ん?ん?私、さっき撃ったよね。撃ったよね。同じ体勢で、さっき当たったままので、そのまま撃ったけど…ツボがうんともすんともしない…。え…、う、うそ…。
「外したのか?」
「え〜〜〜っ!ウソ!」
「射的にウソも何もないだろ。」
「え〜〜〜っ!」
そんなぁっ!全発当てたらもらえる銀バッチが欲しいのに!2発しか当たってない!全発当たらなきゃ意味ないのに〜〜〜!!そうガックリ私が肩を落とせばユウが私の横に立った。
「全発当たらなきゃ意味ないんだよな?」
「…うん。」
「なら、残りの弾やってもいいか?」
「…どうぞ…。」
外したショックがでかい。なんとなく今日はいけそうな気がしたのに!ばか!私のばか!と溜め息を吐く私を横にユウがライフルを持った。それを見て、ユウも男の子なんだなぁ、と思う。なんだかんだやりたかったのか…と思いつつ、私ではちょっと重かったライフルを何でもないように持って、構える。
(って、ちょっと!)
私は思わず一歩下がった。
な、なんだ、この人…!!
(銃構えたユウかっこいい!!)
い、いや!普通にしてるユウもかっこいいけど!な、なにその如何にも銃持ったことあります的な本格的構えは!!か…、かっこいい!かっこよすぎるんですがこの人!
ユウは人差し指を引き金に置いて、残る指はグリップをしっかりと握った。銃を引きつけ、後ろをしっかりと肩に固定して……。
パリーン!
「当たった!」
「…ふん、こんなもんか。」
「…………………。」
時々思うの。
ユウって本当は宇宙人なんじゃない?
「ユウって出来ないものってないの?」
「さぁ。…ツボだけじゃ芸がねぇな。」
ガシャーン!
酒瓶が割れた。
「人生やった事のないもんの方が多いからな。出来ないもんは必ず出てくるんじゃねぇか?」
ガラガラガラ!
今度はスロットが当たった。
「そう…。(今まで出来なかったものは無かったのね……。)」
キキーッ!
最後の弾は一番難易度が高いと言われる走るネズミを当てた。
「すごい…。残りの弾全部当てちゃった。」
「まぁまぁ面白いな。……なんか出てきたぞ。」
「あ、成績表だよ。」
お金を入れたところからスルッとキャラクターが描かれた紙が出てきた。この紙には私たちが撃って当てた得点が書いてあってね。と言っても私が一発外してその後ユウが全発当ててるから9点なんだけどね。と成績表を見るユウに言うとユウが紙を私に渡した。
「なんか書いてあんぞ。」
「だから得点……あ…」
ユウに言われて私は紙を見た。
その紙にはなんと、
「ラ、ラッキー…!」
と書かれていた。
うそ!え、すごい!これ!
「ラッキーは何だよ。」
「ラッキーはラッキーだよっ。どれかわからないけど、当てるとラッキーが出てくるの!」
「で?」
「バ、バッチ!バッチもらえるの!」
「お前が欲しかったやつか?」
「い、いや、違うけどっ。ラッキーは金バッチなんだよ!」
「…へぇ。で、欲しいのか?」
「…へ…。そ、そりゃ…あればすごく嬉しい…けど…」
と私が言えばユウはその紙を取って、傍にいたキャストさんに声をかけて、一言二言会話して、金バッチを……
「ほらよ。」
「……は…」
「お前の欲しいって言ってた銀バッチじゃなくて悪かったな。」
ころん、と私の手の上に転がったのは初めて見た金バッチとラッキーと書かれた紙。それとユウを交互に見て私はぶんぶんと首を振った。
そ、そんな…!
「う、ううん!!すごく嬉しい!ありがとう!!」
そう私が言えば、
ユウはフッと笑った。
(キミの笑顔が一番の景品!)
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