指先


「ナマエ」


ご主人様がリビングで私を呼んで、指をさしてました。


「…?」


何をさしているのでしょうか…?
私の後ろかな…?と後ろを振り返っても何もありませんでした。何か取ってくるものが…?とあたりを見渡しても特にこれといってピンとくるものはなく。ご主人様ごめんなさい、あの、なんでしょうか…。そんな目を向ければご主人様は「いや、違うな…」と顎に手をあてて少し考える素振りをみせて、今度は腰に手をあてた。


「ナマエ、もうちょっとこっちこい。」


なんて言われて内心ふわわっと心がわいた。ご主人様が私を呼んでる!近付いていいんだ!というか近付けっていう命令だ!
ご主人様の命令にかこつけて、ご主人様の元まで駆け寄った。ちりちり鈴が鳴ってしまったのは、ご主人様に呼ばれたのが嬉しくて静かに歩けなかったからだ。


「ナマエ」


はい。なんでしょうかご主人様。
ご主人様の前に行き、再度名前を呼ばれる。首を傾げて次の命令を待てば、ご主人様が、また、人差し指を私にさした。
私の顔の真ん前にある人差し指に、あ、あの、もしかして、わたし、何かものじゃなくて、私自身に何かご用なんでしょ…うか…?(顔に何かついてる…とか、で、でもさっき鏡みたとき何もついてなかった…)
人差し指を私に向けたまま何も言わないご主人様に、ご主人様が私に何を求めているのかをぐるぐる考えてみる。
長い、綺麗なご主人様の指先。
たまにおでこ弾かれたりするけど、いつもは私の気持ちいいところを触れたり撫でたりしてくれる、大好きな指先。
つ、と真っ直ぐ向けられるその先に、……はっ、だ、だめ、だめだよまだご主人様のご用が終わってない…!と頭を振って雑念を払いたいのだけど、悲しいことに私の猫としての本能がご主人様の指先を捉えて放さない。


「………」

「………」


じっ、と。
じっとその先を見詰めて、
私は、(情けないことに)猫の本能に負けてしまった。


くん。
くんくん。


つい、ついだ。
ついご主人様の人差し指の先を嗅いでいた。
指先を出されたら何故か嗅がないと気が済まないというか嗅がなきゃいけない気がしてああなんですかこれではもうただの猫じゃないですか猫だけどっ。
ふんふん嗅いで、ごしゅ、ご主人様の匂いだ…(当たり前だけど)、なんて嗅げて一安心したところで私は我にかえった。


「っ、」


な、なんて馬鹿な獣人なんだろう…!
ご主人様は私に何か用があって呼んだのにその用件を伺う前に自分のことを優先させて、じゅ、獣人風情、が…っ
嗅いでた指先から顔をそらして、きっと呆れたに違いないご主人様を、おそるおそる見上げる。も、申し訳ありません…つ、つい、ついなんて言い訳にならないですけど、でも、でもでも、つい…。
そうご主人様を見上げると、そこには満足そうに口元に笑みを浮かべているご主人様が、いました…。


「本当に指嗅ぐんだな。」


なんて、まるで実験に成功したみたいで。
う、嬉しそう…?


「もっと嗅いでもいいぞ。」


…再度出された指先に、ご、ご主人様は呆れたわけじゃないようで、むしろ嗅いで正解、だったようで…。(ご主人様、猫関連の何かでも見たのかな…それで試したくなった、とか)少しの違和感と疑問を感じつつ、出された指先を(お言葉に甘えて…?)再度、嗅いでみる。
指先から、というよりも手全体からするご主人様の、ご主人様という名の匂い。私を撫でて甘やかす、幸せの手。
するりと、ご主人様の指が私の顎の線を滑り、首を優しく撫でた。
…きもち…い…
思わず目を細めれば、ご主人様の顔がぐっと近くなって、あ、く、くる…?って思って首を竦めれば、思った場所にそれは来なくて、代わりに肩口にそれが触れた。ちう、と吸われる音がして、また違う意味で首を竦める。何かを期待していた私の唇から、声にならない声が出そうになった(…結局、出ないのです)。


「…あ…」


と声を出したご主人様の手は、するりと(本日二度目のするりです)(ご主人様の手は、よく私の体をするりするりと触れて、きます)(きもち、いい、です、破廉恥な獣人でごめんなさいご主人様)私の服の下に入っていて、腰とか、お腹とか、おへそあたりをぞくぞくする手つきで優しく触れてきます。


「…お前、明日リナの手伝い、だったか…?」


はい。明日は、リナリーさんの、撮影のお手伝い、というか「明日わたしの撮影があるんだけど、良かったら見学に来ない?」というお誘いを頂いてて、あの、畏れ多くも、見学、させて頂きます。元々リナリーさんのお仕事されてるところを見たいと思ってましたし、これも、リナリーさんのブランドの勉強に、と。
ご主人様の言葉にこくりと頷くと、ご主人様はしばらく考え込むように目を細めた。そして私をじっと見詰めて(は…はい…?)、ぽつりと呟いた。


「…ま、大丈夫だろ。」


あのご主人様、何が大丈夫なのか、私にはよくわからないのですが…。と傾げた首に、またご主人様が顔を埋めた。(にゃ、う…っ)


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