仕置



「本当に同じもので良かったのか?」


携帯メーカーのロゴがプリントされた紙袋から箱を取り出して、またその中にあるそれに私は大きく頷いた。猫に小判とはまさにこのことです、ご主人様。私にこれは過ぎたるもの。本来なら私が持つものではないのですが、皆さんが絶対持て!と言うので、大変恐れ多いですが、持たせて頂きます…。箱から取り出したそれは、ご主人様と同じ機種の携帯電話。獣人風情が携帯なんて、って話なのですが。


「リナが選んだ、あの白いやつもあっただろ。」


先程まで、私達は買い物を、本当に申し訳ないのですが、私の携帯を買うために携帯ショップに行っていました。リナリーさんは白い、可愛いらしい新機種をすすめてくれました。けど、私なんかが、そんな、ゼロが一個多いものを持つなんてとんでもないです。あの、0円のやつでいいです。むしろトランシーバーか何かで構いません。も、モールス信号か何かでお返事します。べ、勉強します。


「俺のは、だいぶ型落ちしてるぞ。」


手に取った携帯は、ご主人様と同じ携帯でした。0円コーナーにそれがありまして、ご、ご主人様の携帯が0円で売ってます!と思わず見ていたらすぐにご主人様に「それは止めとけ、俺と一緒だぞ」と言われて、私は生意気ながらも「こ、これがいいです!」と即答しました。と言っても喋れないので携帯を持ってぴょこぴょこ跳ねてるしか出来ないのですが。「どうしますか、ラビ。ナマエがぴょこぴょこ跳ねててすごく可愛いです。」「言いたいことは何となくわかるが可愛いからもう少しこのままにしてようさ。」「そうね、それがいいわ。可愛いわ、ナマエ。」「お前等な…。」
ご主人様と、恐れ多くも同じ携帯で、同じ色を持つことになりました。すぐにご主人様の番号とアドレス、リナリーさんの、モヤシさんの、ラビさんの名前がアドレス帳に入って、み、皆さんの個人情報が、い、今、私の手の中に…!!し、死んでも落としません!落としたら死んでも見付けてみせます!!携帯を買った後はすぐに解散ということになって、ご主人様のお家に帰ってきました。そして携帯を眺めているところです。


「…匂い嗅いでも買ったばっかで無いだろ。」


く、クセです…!思わずクンと嗅いでしまったことにご主人様が笑っていて、ちょっと恥ずかしかったです。ああ、でも、ご主人様と同じ携帯なんだと思うと心がとってもふわふわした気分になった。これでご主人様の匂いもしたら、とっても幸せなんだけど、と思うけど、そんなの、だめ。携帯も買って頂いて、同じ機種にしてもらって、それにご主人様の匂いも求める、なんて。わがままだよ。すっごいわがままだ!最近の私はわがままだ。ご主人様に思ってはいけいない感情を抱いて、それが大きくなればなるほど、わがままになっていく。そんなの、獣人じゃない。そんな獣人、ご主人様に嫌われてしまう。私は、獣人なんだから。


「…ナマエ、」


こうして、ご主人様に名前を呼んで頂いて、呼ばれたら、お世話をさせて頂く、存在なのだから。
ご主人様に優しく手を引かれて、少し戸惑いながらも、促されるままご主人様が座るソファの、ご主人様の足の間に腰を下した。ご主人様はそれでいい、と言うように私の頭に、キスをくれました。


「0円携帯なんて、他にもあっただろ。どうして同じもの選んだんだ?」


お腹にご主人様の腕が回って、あ、あの、これじゃ動けないです、ご主人様。甘噛むように、ご主人様が私の耳をあむって噛んだ。あ、あのっ、で、できれば、耳を、あむって噛むのは、やめてほしいの、です。体に、力が入らなく、なります。


「あんまり、俺を喜ばせるようなことばっかすんな。」


びくびくと体を震わせてると、ご主人様は私の頬に唇を落とした。すぐそこにご主人様のお顔があってどっきりする。だって、こんな綺麗なお顔があったら誰でもどっきりする。こんな、綺麗な人間。


「お前を、閉じ込めたくなる。」


閉じ込める…?それは、可能ですよご主人様。ご主人様が私に家を出るなと言えば私はしっかり留守番を果たしますし、ご主人様が出ていけというのなら、悲しいですが、出ていきます。死ねと仰ったら、ご主人様の命なので喜んで死なさせて頂きます。あの、でも獣人の死体というのはとても見苦しいものだと思うので、できれば獣人保健センターに任せて頂ければ。(あれ、でもあそこって奴隷禁止法出てから廃止されてるんだっけ?)


「ナマエ?」


私が少しだけぼおっとしてたら、ご主人様がどうした?と声をかけてくださった。あ、あの、何でもないです。もしものこと考えてました。するとご主人様が私の首に顔を埋めて、ちゅって音をたてた。んっ。


「俺とこういうことしてる時に、他のこと考えるな。」


こういうこと、とは…?あ、でも、はい。他のこと考えません。…でも、次は何を考えていれば?とご主人様を見上げればご主人様の唇が、唇に落ちてきた。ふに、と柔らかいご主人様の唇。唇を合わすことが、こんなにも気持ちいいなんて、知らなかったです。ご主人様は、私に色んなこと、与えてくださる。名前や衣食住はもちろん、不思議な気持ち、好きって気持ち、気持ちいこと、いろいろ、教えてくださる。ご主人様の手が、撫でるように私のふとももに置かれて、あ、う、き、気持ちいの、です。ちゅ、ちゅ、ってご主人様の唇が首から鎖骨まで落ちてきて、反対の手がゆっくりと私の胸を撫でた。び、くびく、しちゃう。形にそって大きくゆっくり動くご主人様の大きな手に、気持ちいと感じてしまって、なんて、駄目な獣人だと思う。私ばっかり、ご主人様に色々なことをしてもらって、頂いて。なんて、いけない獣人なのだ。思わず動かしてしまった腰は、ご主人様の腰に当たる。


「…悪い黒猫だな。」


吐息交じりに、ご主人様が言った。


「俺を誘ってばっか。」


誘う…?何にでしょう?すぐにご主人様のキスが降ってきて、嬉しくてついそのまま受け止めてしまう。重なる唇をよそにご主人様の手が、指が胸と太ももを撫でる。あ、だ、だめです。きもちよくて、首の鈴が鳴る。ほんと、ごめんないさいご主人様、悪い、黒猫で。そうなんです、わたし、とても悪い子。


「そんな猫には、仕置きが必要、だな。」


太ももを撫でていた手がゆっくりと内側へ内側へと入っていって、ご主人様の親指が、爪が少しだけ私の中心に触れてびくっと体を震わせてしまった。そこからご主人様は内腿を撫でるように、でも、中心も撫でるように手を動かして、ひぅっ、あっ、だ、だめ。ごしゅ、ご主人様、私、私、本当に悪い、あの、お仕置き、ください。お仕置き、


「ナマエ。」


その内、指がそこだけしか触れなくなって、あっ、んっ、お腹の奥の奥が、なんか、とっても変な感じになる。胸に触れている手も、何かを探し出すように胸の中心を指先で探していて、ふえ、き、き、もち、い。だめ、だから、ご主人様、だから、お仕置き、ください。こんな、ご主人様に気持ちいことばかり頂く駄目な私に。


「仕置き、欲しいか?」


耳元で囁かれた声に、こくこくと頷く。や、ご主人様の声、響く。ごめんなさい、ご主人様ごめんなさい。こんな獣人、役に立たないことばかりで、こんな獣人に、駄目だって、お前は本当に悪い子だと、お仕置き、ください。必死に頷いたら、顎をご主人様に取られて、深い、深いキスが始まった。


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