撮影


ばしゃん、ぴぴぴぴ。
と鳴る音は今日で何回聞いたかわからないけど、私はその音と、その音と一緒に光る眩すぎる光にどうも慣れることができなくて音が鳴るたびに尻尾と耳をびくーんと跳ねさせて、そのたびに向こう側にいるリナリーさんとモヤシさんを苦笑させてしまっていた。ご、ごめんなさい、とは思っているのだけど(というか今すぐ謝って消えるか逃げるかしてしまいたいです)リナリーさんの仕事をお手伝いすると決めた以上逃げる事などあってはならない、のです。


「んー、ちょっと休憩しましょうか」

「そうね、髪もちょっと変えたいし」


その言葉も何回目だろうか。ああ、もう本当申し訳ないどころじゃないですごめんなさい、と耳を垂らして頭を下げた。下げた先に見えるのは自分の足。しかし今日の自分の足は見たことも履いたこともないような可愛い靴を履いていて(こんな背の高い靴、初めて履いた…)、靴下もそれに合わせたレースのついたヤツ。そのまま視線を上げていけば、先日リナリーさんが私に着せてくれたプリーツスカート(あの時、針を入れたレースがきちんと縫われている)があって、もうおわかり頂けたように、今日はリナリーさんがデザインしたお洋服を着て、私は今、大きなカメラの前に立っている。
あ、上着ももちろんリナリーさんがデザインして手作りされたもので、動きやすくて肌触りもよくて何より可愛い一品だ。だけど可愛いだけでなく、何所かしらにちょっとしたアクセントがかかってたりして可愛いだけじゃなく、かっこよくも、綺麗にも見える素敵なお洋服。


(本当、こんな服を着させて頂いて、私がモデルなんてやっていいの、かな…)


コンセプトが『ハーフの人も着れる服』なのだから獣人が着てみせるが一番なんだろうけど、本当にリナリーさんのブランドを私がモデルさんになって良かったのだろうか、と恐れ多い気持ちでびくびくしながら私はリナリーさんに髪を整え直してもらっていた。
テレビでしか見た事のないような撮影場所。白い大きなパネルが私を囲んでこれまた白い光が私をあてていて、目の前に大きなカメラが立っている。それを操るのはモヤシさんで、その後ろには音の鳴る人形をぱふぱふ鳴らしてるラビさん。そして「七五三じゃねぇんだよ」と頭を叩いたのがご主人様。


「ナマエ、カメラとか気にしなくていいわ。リラックスリラックス」


そう頭を撫でられる代わりに耳についた髪飾りを整えてリナリーさんは下がった。り、りらっくす…、ですか。あ、でも、その、リラックス、あの、わたし…。そう言いたくても声はもちろん出ないし、今は鈴も外していて何も音は鳴らせない。どうしよう、カメラ、またこっち向いてる。モヤシさんが「いきますよ」と言ってまた始まるあの音。

ばしゃん、ぴぴぴぴぴ。


(っ…!)


思わず身を固くさせてしまう音と光に涙が出てしまいそうになる。でもだめ、お化粧せっかくしてもらったのに、泣いちゃ、駄目だ。でも、音と光がっ。そう細かく震えていると、リナリーさんが小さく息を吐いて(あ、あぅ、ご、ごめ、ごめんなさっ)後ろのラビさんに振り返った。


「うーん…。しょーがない。先にラビの方を終わらせちゃおっか。」

「待ってましたー」


リナリーさんの言葉に同じくリナリーさんがデザインしたメンズ物を着たラビさんがやる気満々とばかりに出てきた(す、すごく似合ってる。かっこよくてお洒落なラビさんによく似合ってる!)けど、ラビさんの前にご主人様が立って、ラビさんを腕で制した。


「…ちょっと待て」

「ユウ?」


…ご主人様?皆さん同様私も首を傾げれば、ご主人様は何か思い付いた表情の後に、役立たずな私の前にずんずんと歩いてきて、あ、どうしよう、あまりにも使えなさ過ぎて殴られる…?(で、でもあのカメラの音と光…)と身構えたのだけど、ご主人様は(やっぱり)私を殴らず、ふ、と私の頬を手で包んだ。そして溢れ出しそうな涙を親指で優しく拭って、泣きそうな私を、ふって笑った。


「大丈夫だ。」


そして見下ろされる優しい瞳と声に、私は安堵感を感じてしまう。


「あれは雷じゃない。」


大丈夫だ、怖くねぇよ。と囁かれる声に耳と尻尾がぞくぞく、する…。

(…あ……、)

わ、わかって、くれた。雷、カメラ、雷みたいで、怖くて、どうしても慣れなくて、リラックスできなくて、怖かったの、ご主人様、わかってくれた。ご主人、様…。そうご主人様の優しい手に思わず頬を押し付ると、ご主人様は優しく、優しく私の頬を撫で続けてくれた。


「今よアレン君撮ってぇ!!」

「はいぃっ!」



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