却下



「お前、モデルの話どうするんだ。」


ソファに座ったご主人様がふらふらと揺らしてくださった猫じゃらしをたしっと掴んだところで、ご主人様が思い出したように言った。ご主人様っ、私以前より俊敏なった気がします!そう顔を上げればご主人様が掴んだ猫じゃらしをするっと持ち直して(ふ、ふがっ)、私の鼻先をそれで擽った。


「モデル、どうすんだ。」


ちょこちょこと擽る猫じゃらしから顔をそらしても、ご主人様は薄く笑みを浮かべたまま、私に猫じゃらしをくっ付けてくる。手でなんとか防ごうにもご主人様が何度も角度を変えてきて、容赦ない猫じゃらし攻撃に私は思わず、ぐしっ、とクシャミをした。ご主人様はそれに楽しそうに笑って、やっと猫じゃらし攻撃を止めてくれた。それから人差し指でくいくいっと「こっちへ来い」をされて、私はソファに座るご主人様の前に座った。ご主人様は組んでた足をほどいて、足と足の間に私がいるような形になって私の頬を両手で包んだ。


「で、やるのか。やらないのか。」


覗き込むように見下ろされて、尻尾がふらりと揺れた。私はご主人様の言葉に、少し視線を外して、ふるふると首を振った。耳が下がる。

答えは、やらない、だ。いや、やれない、だ(やらない、なんて言葉遣い、烏滸がましい)。

だって、そんな大役、私がやっていいわけがない。モデルなんてお話、普通のヒトだってびっくりするのに、私みたいな獣人…。ましてリナリーさんが立ち上げる大切なブランド。別に目立つ容姿でもない私。人間でもない私。キズモノの私がモデルをやるなんて。もし皆さんの力になれるなら、その、お茶汲みとか雑務とか。


「そうか、」


首を振った私に、ご主人様は小さく息を吐いた。そして私の頬を手の甲でするする撫でた。きもち、いい。


「嫌なら嫌でいい。リナには俺から言っとく。」


ご主人様の優しい声に少しほっとした。できない、と首を振って、怒られたら、嫌われたらどうしようかと。そう目を閉じた。


「でも、モデルが嫌意外の拒否は認めないからな。」


(…………?)


ご主人様の言葉に閉じた目を開けて首を傾げた。
モデルが嫌意外の拒否は認めない?どういうことだろう。そう尻尾をふらり揺らせばご主人様が私の頬をむぎゅっと片手で挟んだ。


「もし、お前が獣人だからとかそういう下らない考えで俺に断ってるなら、それは却下だ。」


……つまり…?


「もちろんお前はモデルが嫌だから俺に首を振ったんだよな?…獣人だからとかそういう考えは一ミリも受け付けない。」


なんて言われて、ぐっと詰まってしまった。ど、どうしよう…。獣人だからとか、一ミリどころか…、考えてしまった。ここで頷いたら、私はご主人様に嘘をつくことになるのでしょうか。どどどうしよう、受け付けないと言われてしまいました。ということは、私が首振ったことは受け付けられない事で、いやもう獣人とかいっぱい考えてしまいましたご主人様…!!と、あ、とも、う、とも言えなくて金魚みたいにぱくぱくしてたらご主人様の手がむぎゅむぎゅと私の口をアヒルさんのようにした。


「考えてないよな?ナマエ。」


くっ、と口端を軽く上げてご主人様は笑われたのですが、あの、目が笑ってませんご主人様…。
そんなご主人様に私の耳と尻尾はびくーんっと立って、ぷるぷる震えながら下がっていく。そして冷やかなご主人様の瞳に私はやっと理解しました。あ、私。


「もう一度聞くぞ。モデル、どうするんだ。ナマエ。」


最初から拒否権なんてなかったみたい!!



[*prev] [next#]
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -