毛布



ご主人様は優しい方だ。ご飯、毎日三食食べろって言ってくれるし、お風呂も入っていいって言うし、名前もくれたし、毛布もくれる。だけど、よくわからない。だってこんなに優しくしてもらう理由がない。私、獣人だし、拾われたやつだし、キズモノだし、喋れないし。だからせめて家事ぐらいはって思うのに、ご主人様はやらせてくれない。ジャケットをハンガーにかけさせる事もさせてくれない。


「ナマエ」


ご主人様の声を耳が拾って振り向けば、すぐに鼻を摘まれた。(きゅ。)


「お前、また毛布かけないで寝ただろ。」


と言われて、ご主人様の後ろから畳まれた毛布が見えた。前、ご主人様からもらったご主人様の毛布。簀巻きのようにされた毛布。でも私はその簀巻きを脱出して、すぐにその毛布を畳んで、使ってない。だって、あれ、ご主人様のだもん。いくらご主人様がお前のだって言っても毛布からご主人様の匂いがして私のじゃない。そもそもあの毛布はご主人様のだ。私ごときが使っていいものじゃない。


「ベッドは嫌がる布団には入らねぇ、ソファよりフローリング。お前どうしたいんだよ。」


ぎゅむ〜〜〜鼻を摘まれて、鼻が、とれちゃう、取れちゃいます、ご主人様。(きゅうきゅう。)十分ぎゅむ〜と摘まむとご主人様は満足したのか、きゅぽん、と手を離した。(きゃむっ)


「次、毛布使わないで寝たらハムみたいにしてやる。」


あの紐でぐるぐる縛ったやつ。
と言われて私の尻尾がぶわっと大きくなった。わっ、ど、どうしよう…!簀巻きの次はハムにされちゃう…!わ、わたし猫の獣人なのに…!ハムにされたら毛布からもう脱出できない!?できないよね!?どうしよう…!私はどうしよう、どうしよう、と耳をぐしぐしした。そんな私をご主人様は目を細めて見ていたらしいけど、私はそれどころじゃない。と、とりあえずハムみたいにぐるぐるされたくない、と私は畳まれた毛布のところまで走って、座って、こ、これでいいかな…と、もふっと毛布に顔を埋めた。


「…………………。」


鼻一杯にご主人様の匂いが広がる。石鹸の、爽やかな匂い。噎せかえる程の爽やかな、石鹸の、ご主人様の、甘い匂い。少し苦しくなった呼吸を顔を横にずらす事で吸えば、すぐ傍にご主人様がいた。毛布に頬を押し当てるようにしてる私をご主人様はしばらく悩んで。


「枕ってことか?」


と言って私は力強く頷いた。そう、そうですご主人様!毛布をかけて寝たり、敷いて寝たりなんてできません。この毛布はご主人様のものですし、獣人の私が使っていいものではないと思うのです。ですがご主人様が絶対使えと命令されるなら、せめて、枕はどうでしょうか。そう目で訴えればご主人様は私の下にある毛布を引っ張って、


「やっぱハムな。」


がばっと広げた。(に、にげろっ!)



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