07
仕事が一段落しての、ほっと一息タイム。
お気に入りのスティックカフェラテシリーズ(牧場シリーズ美味いな…)を飲みながら、ふと思い付いた言葉をネット検索でかけ、その結果に私は驚愕した。あまりの衝撃の事実に全身がびくりと跳ねあがってしまい、ついでにデスクに足を思いっきりぶつけてしまった。
「う゛…っ!!」
ぶつかった音と私の呻き声が事務所に響いて(?)事務所にいた人達がいっせいに私を見た。そして椅子に座ったまま膝を押さえ蹲っている私に何が起こったのか察したのか、大丈夫ー?なんて半笑いで心配してくれた。それに、だ、ダイジョウブデス…!なんて大丈夫じゃないけど大丈夫と返した。ああこれ絶対アザになるよ…しばらくストッキングじゃなくてタイツだなー…なんて膝をさすさす撫でていたら、呆れたような残念そうな顔をした神田くんが私の前に立って見下ろしていた。
「…ミョウジさんって全体的に隙だらけですよね。」
「え、隙?神田くんやっぱり侍…!?」
「は?」
「あ、いや、なんでもありますん…。」
「どっちっすか。」
ま、間違いない。神田くん前世は侍だ。気配に鋭いしいつも私の背後取ってるし狙った相手は逃がさない言うし今だって隙って言ったし!
神田くんはFAXを流しに行くつもりだったのか、見積書を片手に持っていた。
「で、膝をぶつける程何してたんですか。」
「……うう、」
き、聞いてくれるの神田くん…。聞いてくれるのね神田くん。あのね、あのね、今私すごい残酷な現実を突きつけられたの。
「神田くん…」
「はい。」
「私、貴方にずっと嘘をついていました…。」
「はい?」
痛む膝を擦りながらきちんと座り直し、眉を寄せてる神田くんを向いて私は言った。
「アラサーの定義は27歳以上33歳以内だそうです。」
「そうですか。」
「これがどういうことかわかりますか神田くん。」
「ミョウジさんアラサーですね。」
う、うわああああんっ!!
言われた!はっきり言われた!ザックリスパッと切り捨てられた!さすが侍!容赦ない!むしろ清々しいくらいにはっきり言ってくれた!
「ア、アラサーって30歳以降のこと言うんじゃないんだね…。」
「ミョウジさんアラウンドの意味知ってますか。」
「以降とか以上とか?」
「『周辺』ですよ。」
あああ…!なんということだ…!もう少しでアラサーだと思っていたのが実はもうアラサーだった事に気付かされ、尚且つ後輩に簡単な英語ミスを指摘された…!消えたい!そんな、嘘だと、誰か…!この痛みごと取り払ってください…!
「私は名実共におばさんなのね…。」
しくしく泣いたフリ(いや心の中は号泣だけど)をしていると神田くんが鼻で溜息をついた。うわ、めんどくさそうな溜息だねこんにゃろう…。
「ミョウジさん。」
両手を顔にあててしくしくしていた私に、神田くんが顔を上げるように言う。うう、なんだよ冷たい後輩くん。女子の先輩がセンチメンタルになってるんだから優しくこう、肩をぽんぽんするとか……と思ったけど今の私達の関係上それは地雷になりかねないと思って自分にストップをかけた。
で、神田くんに言われて顔を上げれば、神田くんはスーツのポケットからころんとしたものを私に差し出した。
「これあげます。」
「……飴?」
「嫌いじゃないですよね。」
「え、くれるの?いいの?」
出した両手の上にころんと転がされたそれは、神田くんがこれを常備しているのかとは考え難い、可愛い包装紙に包まれた飴だった。
これ、どうしたの?と聞けば仕入先の事務さんがいつもくれるそうだ(ああ、あそこのおばちゃんね)。
「甘いもの嫌いですか?」
「え、ううん。…だいすき、ありがとう。」
神田くんから飴をもらった事に殊の外びっくりしてしまって、ちょっと固まっていたら神田くんが少し様子を窺うようにしてきたので、すぐにふにゃって笑って返した。
そしたら神田くんはさっきよりも眉間に深く皺を作って、まるで私を睨むように顔を顰めた。え、あれ、どうした。私何かマズイこと言ったか…?と内心ちょっと焦ってると、神田くんが口を手で抑え、ふいっと顔をそらした。
「タチ悪い。」
「え?」
「隙、ありすぎ。」
その二言を言い残し、神田くんは逃げるようにコピー機の元へと足早に行ってしまった。
……は?と首を傾げた私だけど、さっき言った自分の言葉を反復して、ああ、と理解する。
ああ、あれは確かに、ちょっと軽率な言葉だったかも。いやでも飴好きって話だもん。私、悪くないし…。
―でも、可愛いな神田くん。
なんてちょっとニヤニヤしてたら向こうデスクの営業の人が「ミョウジちゃんウチのエース苛めないでよねー」と言ってきた。「苛めてないですよー!」とすぐ返したけど、すみません、結果的に苛めたことになっちゃったかも。なんて、もらった飴を口の中に放り込んだ。
甘酸っぱい、いちご味。
慰めてくれて、ありがとう(なぁんか、不器用だよねー)。
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