06


月曜日がやってきて、金曜日にあんな事があって何か待っているのかと思えばそうではなかった。神田くんは私が思うより、ずっと落ち着いた考えを持っていた人で、朝一で顔を見合わせた時は挨拶をした以外特に何もなかったのだ。あれ…もしかして金曜の出来事あれは私の妄想か?疲れて夢でも見てたのかと思い、不安になって、「金曜、ご馳走様でした…?」と言えば「何で疑問系なんすか」とか睨まれたので妄想落ちではなかった。


(暇だ…)


お昼休憩が終わり、程よくお腹も満たされ特に片付ける仕事もなく、私はぐーたら午後を過ごしていた。事務所には誰もいないし、ソリティアでもやってやろうかとゲームの文字を追った時だ。


「戻りました。」

「おっ、おかえりなさい」


ソリティアにカーソルを合わせた瞬間、事務所の扉が開かれ、外回りに出ていた神田くんが戻ってきた。い、いじってないよ?し、仕事中にソリティアなんてやってないからね。まだやってないからね?開く直前だったけど…!!


「お疲れ様、何かいれようか?」

「コーヒーお願いします。」

「はーい。」


神田くんのコーヒーついでに自分も一息いれようと給湯室に入り、カップを二つ並べる。ケルトに二人分の水を入れてスイッチオン。さて、私は何を飲もうかな。ミルクティーかなぁと粉スティックを取り出すと、いつの間にか後ろに神田くんが立ってて、また腕を組んで壁に寄りかかってた。


「?どうしたー?」

「いえ、またミョウジさんが火傷するんじゃないかと。」

「ほほう…」


言うねー!誰が火傷なんて…!っていうかあの時は神田くんが変に動揺させるからいけないんだよ!
ちょっと!ふふんって鼻で笑わないでよね!


「あの時の火傷、大丈夫ですか。」

「うーん?ちょっと黒くなっただけだよ。」


火傷って言ってもちょっとお湯かかっただけだから火傷でもなんでもないんだけどね。すぐ消えたし。と続けて言おうとしたら、続ける前に神田くんが少し慌てたように私の手を取った。


「へ?神田くん?」

「どこ。火傷。」

「あ、あの?」

「火傷。」


単語だけ言われて一瞬何を言われているのかわからなかったけど、神田くんはどうやらあの時の火傷を心配してくれているらしい。火傷を探すように取った手をあちこち見られて思わず小さく笑ってしまった。
神田くん、優しいなぁ。火傷した時もすぐ処置してくれたし。


「もうないよ。あの時から何日経ってると思うの?いくらおばさんでもそれくらいすぐ治るよ。」


私の言葉に神田くんは一秒だけ呆けた顔したけど、すぐつんとしたいつもの表情に戻った。あらら、拗ねちゃった?


「それ、嫌いです。」

「なに?」

「前も言いましたが、俺ミョウジさんに歳とかそういうの感じてないです。」


先日の焼き肉の時、神田くんは確かに私に対して歳を気にしてないと言ってくれたけど、こればかりはなぁ…。事実だし。もうすぐでアラサーだし。神田くんと私じゃまるで姉弟…、と考えて、思わずくすぐったい気持ちが私をおそった。


「もしかして…、年の差を気にしてる…?」


ぴくり、神田くん(の眉間)が反応して、ああやっぱり、とちょっと嬉しくなった。好意を向けられて悪い気はしないよね。
どうやら金曜の神田くんは私の妄想ではなく、ちゃんと現実だった。火傷の心配も私がおばさん言ったの気にくわなかったのも、私への好意か…。純粋に嬉しいと思う気持ちと、こんな若いんだからもっと年相応な子を好きになればいいのにという罪悪感が交ざって少し変な気分だ。
―でも、悪くはない。


「ねぇ、神田くん。」


そらした顔はそのままに、目だけをこちらに向けた神田くんを上目に見詰めた。


「クリスマス、一緒に過ごしてあげてもいいよ。」


私の言葉に目を瞠った神田くんに、どうして今まで彼の気持ちに気付いてあげられなかったのだろうと思う。私のアンテナが折れてたこともあるだろうけど、神田くんがあまり感情を表に出さない子だからというのもある。
でも不思議ね。今、私はキミの気持ちが手に取るようにわかるよ。


「せっかくなんだから、居酒屋とかは嫌だからね?」

「………もちろん。」


たっぷり間をあけて口を開いた神田くんの顔は未だびっくりしたような顔で、堪え切れずにふき出してしまった。それからお湯が沸いたケルトに向き直って、その後ろで神田くんが小さくガッツポーズしたのには、気付いていないフリをしてあげた。


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