03


どうしてこうなってしまったのか。
窓から見える外のイルミネーションを眺めながら、私は手遊び程度に電卓を叩いていた。時刻は20時。見ての通り残業。先日、取引先がそれでいいよ!って言った件を今更になってやっぱどうにかならないかなぁ?と18時に電話してきやがって今にあたる。今はもうその件はFAXにぶち込んで終わらせて、終わった後の放心状態って感じ。
あー、まー、イルミネーションが色とりどりで綺麗ですねー。ほんと、どうしてこうなってしまったのか。っていうか普通18時に電話するかー?だいたいが就業時間だっつの!次の朝一にしろよ!って「今日中にFAXします!」って言った私がそうしたんだけどさー。…だって今日は金曜日で今やらないと土日挟むことになるし。


(あー疲れた。)


どうして花の金曜日こと花金に一人残ってこんなことしてんだよ私。ま、この後の予定もないから別にいいんだけどさー。ふーんだ。
私は八つ当たりに近い感じで叩いてた電卓から手をはなし、散らばったデスクを黙々と片付けた。帰ろう。コンビニで酒買って帰ろう。あと適当にお惣菜コーナー荒して一日を終わらせよう。PCを消し、電卓を定位置に戻す。ペンはペン立てにぶっさして、開きっぱなしの手帳は……、と手帳を持ち上げたと同時に飛び込んできた名前に本日三度目のどうしてこうなった…。


(じゅうにがつ、にじゅうごにち……かんだくん…。)


広げた手帳の25日には「神田くん」の名前だけが書いてあった。書いたの私だけど、いまいち実感がない。というか付き合わせてしまった感が半端ない。断らなければ、断らなければと思いつつも日はどんどんクリスマスに向かっていく。焦るぜ。色んな意味で。段々断りづらくなってきたというか、断らなくてもいいかなーと考えてしまってる自分がいる。…だって、予定空けとけって言われたもん…。あっちからだもん。なんてかわいこぶっても無駄だ。私がやっても全然可愛くないわ。腹いせ交りに手帳を鞄に押し込み、戸締り確認をして電気を消す。帰ろ帰ろ。家帰って化粧落として酒飲んでシャワー浴びてそれからまた神田くんのこと考えようと階段を下りた。すると集合ポストのところに、


「お疲れ様です。」

「…神田くん?」


彼がいた。


「お疲れ様…。って、忘れ物?締めちゃったけど。」

「いえ、ちょっと取引先のところに寄って戻ったら電気ついてたので。18時頃、すごい顔して電話受けてからまだ残ってるのかと思って。」

「あ、はは…。」


金曜の最後の最後であの電話だからね。すごい顔しちゃうって。


「メシ、」

「え?」

「良かったらこれからメシ行きません?」


壁に寄り掛かってた体を起して、神田くんは階段の何段目かにいる私を見あげた。
メシ…ってことは飲み、だよね。うーんこれから飲みかー。なんて、さっきまで酒買って帰ろうと思ってた自分が思うのもなんだけど。家で酒飲むのと誰かと店で飲むのじゃ全然意味が違う。しかも神田くんとだ。おー後輩かー。しかも新人。…金、あったっけ…。いや無ければカードでいいっか。うーん…25日の話もあるし、うん。

ま、いっか。私の株を上げるのも悪くない。


「ん。いいよ。メシ行こう。何処がいい?」

「ミョウジさんは何食べたいですか。」

「んー。にく。」

「じゃ、焼肉で。」

「よーし飲むぞー!食べるぞー!」


残業を頑張った自分にご褒美だ!と拳を上げてビルを出る。それにしても、なんで私が残ってるからって神田くんも残ってたんだろう…。まさか私たかられてる…?にゃろう、ちゃっかりさんめ…とふと後ろを振り返えった。
そこには、いつも凛々しく上がってる目尻が、少しだけ柔らかく見える神田くんがいた。


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