18.エンドロール


「神様のバカヤローーー!!」


と叫んだ私の声に木々に止まっていた鳥達が一斉に飛び立った。

私は見回しても木、木、木、の状況に叫んだ。どこなのここは。林か森かもわからない(とりあえず木しか見えない)この場所で私は一体何がどうなっているのかわからなかった。おかしい。私は確かに春休みの終わった大学にいたはず。新年度の身体測定を受けて意味があるのかないのかわからないオリエンテーションを受けて確かに椅子でうとうとしていたはず…!


「はず…なのに…、」


何ここ何処ここ。しかも私午前中に出掛けていたのにいつ夜になったのだ(辺りは真っ暗で月だけが唯一の明かりみたいなものだ。)。私、寝ぼけているの?寝ているの?これ夢ですか。むしろ夢見ながらこんなところまで来ちゃったのかな私。(夢遊病ですか。若いのになんてことだ。)とりあえずどこかの樹海に夢遊病って来たかもしれない私は先程辺りを見回した時に見えた黒い高い塔のとこまで歩いてみることにした。
あそこまで行けば何かわかるかもしれない。もしかすると人がいるかもしれないし。それにしても一体ここは何処なのだろう。歩いても歩いても標識すら見つからないし、もちろん人も見ない。おまけに道は舗装されているのかされていないかもわからない程度の道だし、木々が生い茂り過ぎて真っ暗だし、せめて外部と連絡を取れればいいんだけど携帯は圏外だし。私は手入れがされていない草木を掻き分けながら、圏外と力強く表示されているディスプレイに溜め息を吐いて携帯をポケットにしまった。


「……なに…?風…?」


その時、急に回りの木々が騒ぐようにざわめき始めた。嫌な風が私を包んで背筋をぞくぞくさせる。何かが来る。そう直感がして回りを見回すけどやっぱり木しかない。どうしよう。何だか嫌な感じ。もしかして熊でも出てくるんじゃないだろうか。出てきたら即アウトだ。持っているものなんて携帯しかない。それでもざわざわと騒ぐ木と風は私に絡み付いてきて、本当にどうしよう、今の自分は何も、


「誰だ、テメェ。」


首筋に触れるか触れないかの距離に銀色の鋭利な何かがあった。それがテレビでしか見たことのない日本刀のようなものだと理解できたころには、あれ程騒いでいた木々達は静かになっていた。底を這うような低い声が私の背後から聞こえて私は喉を引き攣らせた。お、男の人だ。どうしよう。まだ熊の方が良かったかもしれない。

私は、人に背後を立たれるのが、怖い。

まさしく今はその怖い状況だ。しかも知らない男が自分の背後に立って日本刀のようなものを私の首筋に宛がっていて、生命的恐怖と精神的恐怖が同時に私を襲っている。私は喉を引き攣らせると同時に軽い呼吸困難に襲われた。は、は、と上手く呼吸ができなくなって私は口を金魚のようにぱくぱくさせて抜ける力をそのままに地面にガクリと膝を落とした。すると背後にいる男性のピリピリとした空気が若干和らいだような気がしたけど、私はそれどころじゃなかった。やめて、背後に立たないで。背後はまだ、怖い。茶髪の彼が私の頭を支配するけど、それと一緒に黒髪がチラついた。

頭の中をチラつく黒髪の男の子の姿に私の呼吸は安心したかのように浅く元に戻り始め、落ち着かせるように胸元を抑えながら、私は首だけを後ろに向けた。


「………お前、」


私の背後に立っていた男性はまだ剣を構えていたけど、私の顔を見ると少し眉を寄せて訝しげに私を見つめてきた。そしてその男性はゆっくりと剣を下ろしこちらに近付いて来たけど、生憎私の足は力が入らなくて私は逃げ出せずに浅い呼吸を繰り返していた。すると、木々から漏れる月の光が男性の姿を頭から照らし出した。

真っ黒な髪だ。近くで見なくとも触ったら気持ち良さそうなサラサラな黒髪を長く伸ばして高い位置で一本に結んでいる。そして女性もうっとりするような綺麗な白い肌は月の柔らかい明かりに照らし出されて一瞬女性と見間違えてしまう程美しい。しかしその見間違いは直線に切り揃えられた前髪から覗く瞳ではっきりと男性のものだとわかる。睚がクッと上がっていて、とても鋭い。

はっきり言えば、目付きがとても悪い。

そこで私ははっと息を呑む。あれ、私、なんだかこの目付き知ってる。サラサラな黒髪も、女の子が女の子辞めたくなるような綺麗な顔立ちもどこかで見たことがある。私より少し年下であろう男性(…というより青年)も何処か私を怪しんで探っているというよりも誰かと見定めるかのように探っている。嘘。嘘でしょう。


互いに目を細めて互いの姿形を確認する。

一方は変わらず、一方は成長した姿で、信じられないと顔を見合わせて、私達は恐る恐る口を開いてこう言った。









「…ナマエ、か?」

「…神田くん…?」






主よ、
人の望みの喜びよ


キミと出会うための布石だった日々



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