17


神様は本当にお茶目である。

変な子供を送りつけてはお別れの挨拶もなしに帰してしまう。



神田くんがいなくなって、一ヶ月がたった。



私の日常は急に元に戻った。起きたら隣に寝ていた神田くんがいなかったのだ。あれ。前みたいに走りにでも行ったのかなといつも通りに朝ごはんを二人分作って9時まで待った。神田くんは帰ってこなかった。一応お昼、夕飯も二人分作ってみたけど、神田くんは帰ってこなかった。あれおかしいな。神田くん、いたよね。まさか今までの夢でした、なんて盛大な夢オチに焦りながらも部屋を見回したけど、やはり神田くんはこの部屋にいた。彼の服も彼の定位置の出窓もそのままだ。


あぁ、

神田くん、帰れたのか。


私はそう思った。そう思えば、胸がストンとした。それと同時に少しの寂しさがあった。神田くんのいた日常が案外楽しかったのが原因だ。


今は神田くんが居なくなった生活の寂しさがやっと落ち着いた頃である。色んなことがあったなぁ、と出窓に神田くんがそうしていたように座って、お茶を飲んでいた。この間来た大学の成績表はなんとかフル単でやったぁ今期もなんとかなったぜ!それじゃぁ取り合えず自分にご褒美のお菓子でも買ってお茶でもしようと私はゆっくりしていた。

神田くんは元気にしているだろうか。

戦って、無理をしていないだろうか。

死んで、いないだろうか。

神田くんが居なくなって、考えることは神田くんのことだった。人生の中で最も短い付き合いの部類だったけど、最も濃い付き合いをした彼だった。彼のことを考え始めると寂しさと心配で押し潰されそうだった。もっと、もっと、一緒にいたかった、と思うのは、私の我儘なのだろうか。興味のない物理学の本を徹夜して読む程彼を帰したがっていたのに、帰ったらこれだ。とんだ、我儘だな。

いや違う、神様がお茶目すぎるのだ。神様のおかげで、私はこの春休みを波乱万丈で過ごすことになった。春休みも残りわずかとなったが、まだこれ以上に神様が何かをするなら「神様バカヤロー」とこの出窓から見える空に叫んでやる。出窓から見える空は真っ青だった。すっきりした青空と暖かな陽射しが零れる出窓のこの部屋で、私は今日も彼がそうしていたように座っている。


どんなに日を重ねても残っていた腰の引っ掻き傷が、神田くんと一緒に、嘘のように消えていた。






主よ、
人の望みの喜びよ


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