15



「俺がお前を護衛をしてたのは、ずっと視線を感じていたからだ。」


まさかこんな感じで警察にお世話になるとは思ってなかった。あの後たまたま通りかかった人に警察を呼んでもらって、気絶してるはるちゃんに一体何事だと驚く警察に神田くんが普段の態度でさくさくと対応してくれた。頭を必死に動かそうとするんだけどそれでも震えが止まらない私に神田くんが代わって色々してくれた背中を覚えている。

家に帰ったあと、神田くんはベッドで蹲る私の隣に座った。


「…出窓に座ってたのも…?」

「そうだ。出窓から、あの男を何度も見た。」


今日、神田くんが出窓に座って寝ていたのは、はるちゃんを誘き出すためだったそうだ。神田くんが見える位置で寝ていて、私が一人で出掛ける状況を作るため。(私に気を許して寝ていたわけではなかったのだ。)神田くんは爪の跡が残る私の腕を持っては「…悪い」と呟くため、神田くんの作戦内に私とはるちゃんの接触は入ってなかったのだろう。私も、まさかまたはるちゃんに会うとは思わなかった。もう会いたくない。(警察が連れてったから、もう大丈夫だと神田くんは言った。)凍えるほど、怖い。怖かった。また前みたいになったらどうしようと思った。もう、前みたいに未遂じゃ済まなくなる。

涙で頬にくっついた髪を神田くんが優しく分けてくれた。変なの。前までは私が触れば「触るな」って弾いてたクセに。自分から触ってくれるなんて。(しかも、とても優しい。)年下のクセに、今の神田くんは男の子という表現より、男の人、と呼ぶのに相応しかった。


「はるちゃんとは、昔付き合ってたんだ。」

「…あぁ。」

「大学に入りたての私に優しくしてくれて、何でも教えてくれて、この部屋もはるちゃんが決めてくれたり、いい人だったんだよ。でもいつだったか、はるちゃんが知らない女の人と歩いているの見た。最初は友達か何かと思ってたんだけどさ、しばらくしたらさ、はるちゃんが女の人と抱き合ってるところを見ちゃって。」

「………。」

「もう私耐えられなくて。別れようって言って別れたんだ。はるちゃんは「うん。」ってスッパリ別れてくれたよ。今思えば遊ばれてたのかな、私。でもさ、遊ばれたのは私だけじゃなくて、はるちゃんもだったらしくてさ、その抱き合ってた人がはるちゃんを捨てたらしいんだよ。」

「自業自得だな。」

「だね。でも、はるちゃん遊ぶのは慣れてたかもだけど、遊ばれたのは初めてだったみたいで、傷付いたはるちゃんは私とヨリを戻したがったの。それでメールがしつこく来て。あ、メールってのはこの携帯で短い文章を送る機能なんだけど。で、もう私嫌になっちゃってメアド…えっと、通信番号?」

「あぁ。」

「そう、通信番号を変えたんだけど、それでもなんか人伝に聞いてまたメールが来たの。さすがに私も参っちゃって、携帯自体を代えたの。通信番号も最低限しか教えないようにしてね。そしたらパッとはるちゃんから連絡は途絶えた。」

「…それで?」

「そっからはるちゃんおかしくなったのかな…。しばらくして、もう完全にはるちゃんを忘れかけた時にさ、…後ろから襲われかけた…。」

「…は…!?」

「いや、何もされてないから未遂、…だったんだけどさ、…結構びっくりしたっていうか…、あぁ、やばかったなぁ、と…。」

「……背後が弱いのはそれか?」

「…鋭いね。」


神田くんは、私が後ろに弱いこと、とっくに気付いていた。そりゃぁ、小さくても軍人さんだもんね。人の変化とか弱味とか、すぐにわかっちゃうんだろうな。こんな無愛想な子なのに。…ううん、違うや。神田くんは無愛想なんかじゃない、きっと優しさを表に出すのが、とても苦手な子なのだ。こんなに優しい子なのに。


「本当に何もされてないんだな。」

「え、…あー、うん?」

「なんで疑問文なんだよ。」

「いや、確かに何もされてないけど、ちょっと怪我したというか…。」

「怪我…?見せろ。」

「えぇ!?」

「はやく。」


怪我と言っても今じゃ古傷のような、あ、でもまだ赤く残ってるけど、でも場所が場所なだけにちょっと神田くんには見せられないかな!と言えば神田くんは目付きの悪い目をもっと悪くさせて(もう、本当に目付き悪いなこの子…。)もう一度、今度はさっきよりもうんと低い声で神田くんに「見せろ」と言われた。私は恥ずかしさが半分、渋々が半分で神田くんに背中を向けて、服を少しめくった。


「わかる?腰の、」

「…この引っ掻き傷か…。」


すぅ、と神田くんに傷を撫でられた。人差し指で優しく傷を追われて、腰の自分の傷がはっきりとわかってしまった。そして、自分の歳の半分ぐらいの男の子に触られただけで、私はとてもドキドキしてしまった。私は神田くんに「もういいでしょ」と言って無理矢理腰を引いて神田くんに向き合った。神田くんはとても悔しそうな顔をしていた。どうしてそんな顔をしてくれるのか、私にはわからなかったけど、彼の不器用な優しさに私は微笑んで、神田くんの手を取った。


「ありがとう、神田くん。」

「…?」

「ずっと、守ってくれてたんだね。」


護衛をしてやる、なんてすごい上から目線だったからわからなかったけど、私は神田くんがこの部屋に来てからずっと、神田くんの優しさに守られていたんだ。でなければ、私はまたはるちゃんに襲われていた。


「ありがとう神田くん。」

「…礼を言われる程でもない。」


いつものように無愛想にそう言った神田くんの目は、どこか照れくさそうだった。





私達はその後、小さなベッドで一緒に寝た。はるちゃんの話を何かと聞いてくる神田くんに苦笑しながら、私達はゆっくりと眠りについた。










次の日、

起きたら神田くんはいなかった。


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