02



いつもより頑張った自分の化粧に私は頷いて、少し巻いちゃったりなんかしちゃった髪も手櫛で遊ばせて、最後にこの間買った可愛いスカートをひらり翻して鏡の前で一回転してみせた。


「おかしいとこ…ないよね…。」


さっきから何度も何度も確認してる。大丈夫、大丈夫。化粧も上手くできたし、髪も綺麗に巻けてる。スカートだって店員さんにすごくお似合いですよーって褒められたやつだし、おかしいとこなんてない。…と思ってもなんか気になってしまう。アイライン濃くないかな、髪似合ってるかな、スカート少し幼すぎないかな。今日は待ちに待ったユウの誕生日の日だもん。やっぱり綺麗な格好してユウの隣にいたいもん。うう…そう考えるとスカート幼いかなーってあの黒のやつにしようかなーって思ったら、やだっ、時間…!時間に追い出されるようにして私は家を出た。ユウ、この格好気に入ってくれるといいなぁ。






私には無関係のように感じるお洒落な大人な街に街灯が街並みをロマンチックに魅せるようにぽつりぽつりとつき始めた。待ち合わせ時間にはなんとか間に合って(ユウの誕生日に遅刻とかありえないしっ)、ユウもまだ着いてないようだったから鏡を取り出してもう一度化粧とか髪を確認した。大丈夫、大丈夫。おかしいとこ、ない。あぁでもユウ私見たらなんて言うかな。そ、その前にユウに会ったらなんて言おうかな、お、お誕生日おめでとう?ううん、その前に休日出勤お疲れ?なんて言えばいいのかな、とあれこれ考えていると、人と人が溢れるお洒落な街に、はっと映える黒髪を見付けた。初めて来た場所に溢れる人。ユウを見付けられるか心配だったけど、杞憂だったみたい。だって、私の目は、ユウをすぐ見付けられるように出来ている。

まだ少し肌寒い夜に黒の薄手のコートはユウによく似合っていた。黒のコートに黒のジーパンをシンプルに着こなして、ユウ程の綺麗な顔立ちじゃなければ真っ黒スタイルで終わっていたのに、どうしてユウはいつもいつも、そういうのを当たり前のように格好良く着こなしちゃうんだろう。


「悪い、待たせたか。」

「あっ、ううんっ、ぜんぜんっ」


あまりのかっこよさに少し声が上擦ってしまった。でも、本当にかっこいいんだもん。少し染めてしまった頬を俯いて隠せばやけに子供臭い自分のスカートが目に入って今すぐ帰りたくなった。あぁ、もう、なんであの黒のやつにしなかったんだろ…。わたし、本当に子供…。と唇を噛み締めれば、ふわりと耳の横の髪にユウの指先。頑張って巻いた髪を指に絡めてぴんと弾けばフッてユウが笑った。


「可愛い頭してんな。」


あ、


も、


だめ。

私いつ死んでもいいや。
あの顔でそのセリフ…!な、なんなのこの人!わ、私を心臓爆発で殺す気なのかな…!か、可愛いって!可愛いって!可愛いって言ってくれた…!!あのユウが…!どうしよう!すごく嬉しい!なんて心の中ですっごいはしゃいでると、腰に腕を回された。はっ、あ、ちょ、な、


「メシ行くぞ。」


なんて言われて、すっごく自然に回された腕に頭はオーバーヒート。子供染みたスカートに凹んでいたのに、やだ、ユウの一言で、私最高に嬉しい。




ユウに腰を抱かれて歩く街並みには綺麗な大人の女性がたくさん歩いていて、それもユウの隣を歩かせたら絵になるんじゃないかと思う人達がたくさん。女の人達は隣を通りすぎるユウに目を見張るようにしていた。あとお前が彼女かよ、的な視線もあって、ちょっとめげそうになってきた頃にユウの足は止まった。あ、夕飯、ここなんだ。と見上げた店に私は固まってしまった。


「え…?」

「あ?」

「え、ユウ、メシって…ここ?」

「あぁ、ここだ。」


なんか問題でもあんのか、と言ったユウだけど……。いや、…いやいや。いやいやいや。

見た瞬間にわかる高そうなお店。フランスかイタリアンかどっちかわかんないけど、なんていうかテーブルマナーが問われるじゃないかと思うほどの西欧風の立派な外装に私はつい顔を引き攣らせた。無理っしょ。無理っす。一般ピーポーな私にこんなお店烏滸がましいにも程がある……と固まっているとユウが「ちょっと待ってろ」と言ってそのお店に入って行った。え、本当に夕飯ここなんだ…!と逃げ出したくなる衝動を私はなんとか踏み込んで耐えた。だ、だって、め、めっちゃ綺麗な店だよ!なんだかセレブとかが入りそうな店だよ!だ、だって、ち、近くに宝石店とか有名ブランド店とか並んじゃうお店……、


「………あ、」


ふと、見えた宝石店に私は目を止めた。ユウがお店のウェイターさんと話しているのを確認してから私はそこのショーウィンドウを覗いた。七色にきらきら輝く宝石からシンプルな指輪に私は自然と溜め息を吐いていた。


「ペアリングとか…、買う予定だったんだけどな…。」


そう。
買う、予定だった。
あれが欲しいとかこれが欲しいとか、欲しい物はあまり口に出さないし、欲しいと思っても自分で手に入れるタイプの人だし、「何が欲しい?」って聞いても「別に」とか言う人だから、ペアリングとか、買おうかな、って思ってたんだ。思ってたんだけど、


『俺はお前に俺のためにとかで金を使って欲しくないし、使わせる気はない。』


なんて…。先手を打たれたというかなんというか。


「結局、何にも買ってあげてないし…。」


だってあの日、帰るときにも「プレゼントとか考えるなよ。」って言われたし。家に帰ってそれでも色々考えたけど、なかなかいい案なんて思い付かなかったし。ていうかペアリングなんてそもそも私が欲しいっていうか…。(あ、あれ可愛い…。)


「ナマエ、」


明らかにゼロが一個多い指輪達に(た、高っ…!!)ショーウィンドウから勢いよく体を離せば、いつの間にか後ろにはユウが立っていた。


「席空いてるから、入るぞ。」

「えっ、あ、う、うんっ……。」


や、やっぱり入るんだ、あの店…。と苦笑いしてショーウィンドウを背中にすればユウは首を小さく傾げて私の背中の向こうを見た。


「何見てたんだよ。」

「えっ、あ、別に特に意識して見ていたわけではなく…。」

「指輪、か?」


ユウはまた私の腰に手を回して(きょ、今日はやけにくっついてきてくださる…!!)一緒にショーウィンドウを覗き込んだ。


「う、うんっ、指輪見てた…。」

「やっぱ女はこういうの好きなのか。」

「あ、い、いや…その…、…ユウが特に欲しいものないって言ったらペアリングとか…買おうかなと考えてて…。」


こ、これじゃなくてもうちょい安いやつとかね!と私のお金を心配してくれるユウに慌てて言えばユウはわかってる、と私の頭をぽんぽんと撫でた。


「ペアリング、欲しいのか。」

「あ…うん…ちょっと欲しい、かも。」

「何でだ?」

「え…えっと…、た、誕生日の記念とか…、お揃いとか……、あと…、お、おんなのひとよけ、とか…。」

「………………。」


最後はちょっと恥ずかしくてユウからの視線を逃げたけど、


「…へぇ。」


とユウの楽しそうな声に私は顔を上げた。


「女避け、ねぇ。」

「あっ、やっ、ち、違っ…!」


にやり、笑ったユウに私の顔はカッと熱くなった。


「ち、違うっ、こ、これは一般論であって、決して私情というわけではなくて、わ、私は別に女避けなんて…!」


とユウの胸をばんばんと叩いてたらその手はいとも簡単に止められた。真っ赤な顔をした私をユウは楽しそうに笑ってた。そして、


「なら、俺も欲しい。」

「…え……?」

「お前の男避け。」

「…わたし?」

「買うぞ、ペアリング。」

「え、…えぇ…!?」


ユウは先程のお店の窓に手を上げた。すると窓越しのウェイターさんが小さく頭を下げたのが見えて、えっ、ちょ、何?と状況理解もそこそこに私は抱き寄せられるようにしてユウと一緒にそこの宝石店に入った。ユウが何かを欲しいなんて言うのも意外だったし、宝石店にそのまま入っちゃうのも意外だった。(あ、でも、だめ…!ここゼロが一個多いって!)ま、まずいってユウ!私そんなにお金ないよ!とユウのコートを引っ張っている間、ユウは、


「あそこのショーウィンドウのやつを。」

「畏まりました。」


なんて店員さんと話を進めてて、ゆ、ゆう…!わ、わた、わたし、お、おおおかねゼロ一個多いよ…!!と焦っている時でも


「もう一回り小さいサイズは…」

「ご用意します。」


出された指輪を見て「これじゃデカイよな…。」とか言ってて(い、いつ私の指のサイズ知って…!)一人ぐるぐるしていると、


「ほらよ。」


と店員さんの「ありがとうございました。」と小さな紙袋を渡されて、え、あ、あの、としているうちにお店を出ていた。


「……………。」

「指輪、没収されんなよ。」

「…あ、そうだね。校則………っじゃなくて!」


お金!こ、これ、可愛いけどゼロが一個多いやつ…!!わ、私何割払いなるか…!!とキャッシュカードを財布に仕舞うユウに言えば、ユウは小さく笑った。


「誕生日の記念なんだろ。受け取れ。」

「そ、そんな…、でも私、…ユウの誕生日なのに…。」

「誕生日は、他に欲しいのがある。」

「…え?」

「メシ行くぞ。腹減った。」


なんてユウは言って、先程のお店に足を向けた。ユウの欲しいもの…ってなんだろう?そんな事を思いながらウェイターさんにドアを開けられて私達はお店に入った。ユウにペアリングを買ってもらったことやユウの欲しいものことで、私のこの豪華なお店に対しての緊張感はすっかりなくなっていた。


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