ねこねここねこ!(2/2)
「よいしょっ、と。」
ここなら誰も来ないだろう、とユーリは下駄箱の裏にナマエをおろした。何だかんだ暴れながらも自分の首に腕を回して床に足を付けたナマエに小さな嬉しさを感じながらユーリは改めてナマエを見下ろした。
「もう、いきなり何なの…。」
「そのセリフそっくりそのまま返してやるよ。」
「はぁ?」
「ま、それはよしとして。」
何がよしとしてよ…と言いかけたナマエの口は伸ばされたユーリの不穏な手付きに消された。にやりと笑うユーリに大変身の危険を感じる。「な、何よ。」と後ずさりしたくても背中には下駄箱。逃げ場所もなくずるずるとその場に座り込めばユーリも座った。そして、
「耳、俺にも触らしてくんない?」
「や、やっぱり…。」
リタの称号を見たユーリの反応を見た時から薄々感じていたが、この男は猫派ならぬ猫耳派だ…!ナマエはがっくりと肩を落としてからフラリと尻尾を揺らした。
「い、や、だ。」
「何でだよ。」
「猫耳ならリタのねこねこウェイターを触れば?」
ナマエはユーリの期待を削ぐようにぷいっと顔をそらした。そらしてやった。このエローウェルは猫耳萌えという性癖持ちだ。きっと3の女の子が猫耳を付ければ10になるとか思っているに違いない。リタの場合、初期数値が10なのだからさぞ嬉しかったに違いない。
「……リタみたいな小さくて可愛い子が猫耳してた方が嬉しいクセに。」
「はぁ?」
「〜〜〜とにかくっ!私に触らないでっ!」
近付いてくるユーリの胸板を押し返してナマエは取れない距離を取ろうとしたが、押し返した手がやんわり掴まれた。
「ちょっ…!」
「触らないで、っていうのは無理な話だな。」
「ユーリッ!」
「只でさえ常に触ってたいって思うヤツがこんな格好してたら、なぁ?」
「……は…。」
なぁ?と言われても返事に困る。ナマエは掴まれた手でゆっくりとユーリに引き寄せられ、ぽんぽんと頭を撫でられた時には優しく抱き締められていた。
「ナマエさん…、ヤキモチですか?」
「ヤキモチ!?わ、私が妬くわけないで………ひゃっ」
「おお、すげぇ。尻尾にも感覚あんのか。」
しゅるり、ユーリの手にはナマエの尻尾があった。くにくにと優しく握ってくるユーリの手に不快感を感じる。力が抜けていく。
「や、だ…!触んないで…!」
「尻尾弱点?」
「何言って…!」
「耳と一緒に触ったらどうなる?」
薬の効果だろうか、普段よりもよく聞こえる。その分、ユーリの低音がぞくぞくした。しかも触らないでと言っているにも関わらずユーリが猫耳に触れてきた。
「あ…!ゃっ…!」
尻尾を掴まれて力が出ない。よく聞こえる耳がユーリの吐息を拾う。ふにふに触れてくる耳に擽ったいよりも少し上の感情が口から溢れてしまう。ユーリが笑った。
「猫が鳴いてるように聞こえる。」
「そ、そんな…!」
はむ、
耳を甘噛みされた。
「…んゃっ…!!」
「お。今間違いなく言った。」
この声が猫の「にゃぁ」に聞こえるなら間違いなくエステルに耳だけ…いや、そのおめでたい頭にレイズデッドをかけてもらえ…!とナマエは弱々しい力でユーリ引き離した。
「…ナマエ、今自分がどんな顔してるかわかってるか?」
「顔…?わかんないけど、取り合えず目の前の野郎をぶっ飛ばしたい。」
「あー。まぁ、そんな感じはするが……それよりも、」
ユーリの顔が近付いてくる───
何をされるのかと目を瞑った後にはもう互いの唇は優しく触れ合って離れていた。
「ユー…」
「お前可愛すぎ。こんな耳生やしておまけにこの尻尾。」
殺す気か、とユーリが小さく笑った。囁くようなユーリの声がナマエの耳を震わす。
「しかもリタの猫耳触ればいいとか…。完璧にヤキモチ、だろ。」
「ち、ちがう。」
「おーいナマエー。」
「やぁ、やめて…!」
掴まれた尻尾をぶんぶんと振られた。おまけに猫耳までまた弄られそうになってナマエは下駄箱に身を預けるようにして首を縦に振った。
「わ、わかった…!うんっ!だから尻尾そんな掴み方しない、で…!」
「何がわかったって?」
「やっ…!…リタ…、リタに…ヤキ…モチ…やいたのぉ!」
結局耳まで触られてナマエはすべて言ってしまった。言い切るとユーリは「ヨクデキマシタ。」と尻尾と耳から手を離してナマエを抱き締めた。遠くで太鼓の音がドンドンと聞こえる。
「…ナマエ。」
名前を呼ばれて見上げればユーリのそれが落ちてきて、二度三度と同じところに重なった。
「リタの猫耳ウェイターよりお前の方が可愛いよ。」
「ほ、本当…?」
「本当。」
何せ生えてるからな。とユーリは小さく笑ってナマエの尻尾をしゅるりと触れて離した。その感覚に小さく身を捩りながらナマエはユーリに抱き着いた。ユーリは珍しいナマエからの抱き着きに少し驚いたが、すぐに抱き締め直した。
「つうか猫耳なくても全然イケる。」
「ほ、本当?」
「ためしてみるか?」
にやりと口端を上げたユーリにナマエは頬を染めた。尻尾が緊張してきたのか、ナマエの後ろでぴんと張ってからゆらゆらと揺れた。
「あ、いや、でも今猫耳が…。」
そう猫耳を抑えたナマエの手を取って、ユーリはナマエの額にキスをした。額から滑るように唇を落とし、ユーリのそれはナマエの唇を通り過ぎて首筋に辿り着いて、吸い付いた。
「あっ、」
「だったら、いつもの倍イカしてやるよ。」
「あ、待ってユーリ…ん、ぁ、………
にゃぁっ」
仔猫のようなユーリの舌使いにナマエはとうとう鳴いた。そしてその日、ナム孤島の太鼓は猫の鳴き声を隠すように雄々しく響いていた。
猫耳好きの狼にご用心!
耳と尻尾が弱点です!
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