ねこねここねこ!(1/2)
「ナマエ可愛いです!」
「えぇ、とても可愛いわ。」
「意外に似合ってるじゃない。」
息抜きと休息のため、ユーリ達はユルゾレア大陸北西部にいつの間にか出現していたナム孤島に来ていた。島の中心に何処かで見たことのある太鼓が置いてある毎日お祭り気分のようなこのふざけた…いや、楽しげな島をいつものようにユーリがだらだらと歩いているとエステルとジュディス、リタが体育館脇で何やら盛り上がっているのが目に入った。
「何してんだ?」
ユーリは固まってる女性陣の中にナマエが居ないことに気付き、盛り上がってる中心部にナマエがいるのかと察した。はしゃぐエステルと微笑むジュディスの間に顔を覗き込ませて、見えたものにぽっかりと口を開けた。
「なっ……」
「や、ユーリっ!見ないでっ!!」
「なぁに言ってんのよ。よく似合ってんじゃない。」
「リタ…!ちょっと!」
物影に隠れようとするナマエをリタがぐいっと押し出し、ある意味ユーリの開いた口が塞がらないそれが前に出た。
ナマエの頭に彼女の髪と同色の何かが二つ、ぴんと生えている。艶やかな毛に包まれたそれは……獣耳にしか見えない。しかもそろりと目を下に下ろせばこれまた同色の細長い尻尾がふらふらと揺れている。……以前、リタの称号で猫耳を装着しているのを見たことはあるがこれとあれではまったく違う。これは明らかに生えている。……そう、生えている。
「…何これ。」
「先程うしにんの方にもらったのです。」
思わず思った事を口に出し、ナマエを指差せばエステルが嬉しそうに答えた。エステル曰く、ミニゲームの景品だそうだ。そのミニゲームで遊んでいたナマエがその景品を受け取ったのだが、どうやら衣装ではなく薬のようで、リタの「飲んでも平気なんじゃない?」の台詞に飲んでみると、
「耳と尻尾がナマエに生えたの。耳と尻尾からして…猫みたいね。ふふ、可愛いわよ、ナマエ。」
「やめてよジュディ…。もうやだ何なのこれぇ…。ちゃんと元に戻るのかなぁ。」
「さぁ?でもそんな強そうな薬でもなさそうだったし大丈夫なんじゃない?半分も飲んでないんでしょう?」
「うん。舐めたぐらい。」
「舐めてこの効力でしたら……、全部飲んだらナマエは完璧猫になっていましたね。」
「…嬉しそうに言わないでくれる?エステル…。」
既にぐったりとしたナマエに同調したかのように猫耳が下がった。尻尾もまるでナマエの一部のように垂れ下がっている。……完璧にナマエの体の一部だ。うしにんとやらに渡された薬は差詰め猫になる薬。しかもこのふざけた…いや、楽しげな島の住人が作ったものだから毒や副作用の心配は多分ないだろう。ユーリは目の前で何とも考え深い格好をしているナマエを下から上、上から下へと見直した。
ぴんとはねた猫耳。
握りたくなる尻尾。
おまけに恥ずかしくて今にも泣き出してしまいそうな表情。
「…………やべぇ。」
「…ん?何か言ったユーリ?」
「いや…。」
つい漏らした本音を手で抑えて首を振る。以前のリタの猫耳とは訳が違う。あれは付けるだけでこちらは生えている。ぴくぴく耳が動いているのが何よりも証拠だ。
一方、同じく動いている猫耳が気になったのか猫好きなリタがナマエを見上げてその耳に手を伸ばした。すぐに手を伸ばせる『同性』という立場にユーリは「羨ましい」と思いつつそれを見ていた。
「すごいわね。本当に生えてる。」
「あっ、やだ、リタ…!」
「気持ちいいかも…。」
「リ、リタ…!やっ、」
頬を染めて身を捩るナマエから聞こえた声が猫の鳴き声に一瞬聞こえた自分は(人間として)終わっているのだろうか。ユーリはまずいまずいと心臓に汗をかきながらも平静を保っているフリをしていた。
「おや〜皆固まって何してるの。」
その時、ユーリの後ろからレイヴンがひょっこり現れた。その後ろにはカロル、ラピードと着いてきていて、全員揃ったパーティにエステルが「いいところに!」とばかり顔を明るくさせた。その瞬間、
「きゃっ…!」
「ユーリ!?」
「ナマエ!?」
「悪い。これ貰ってくわ。」
「あら、勝手な人。」
ナマエをまるで米俵のように肩に担いだユーリにエステルとリタの声が合わさって、ジュディスが少し驚いた表情を見せてまた穏やかな表情に戻った。
「ちょっと!ユーリおろして!」
レイヴンがこちらに来る前にユーリは暴れるナマエの足を抑えてその場をすたすたと去っていった。その後ろ姿にレイヴンは頭を掻く。
「…何あれ。」
「来るのがちょっと遅かったわね、おじさま。」
「おっさん状況がうまく飲み込めないんだけど…。」
「残念です。リタの猫耳とナマエの猫耳を並べたら絶対可愛かったのに…。」
「………あぁ。」
エステルの言葉にレイヴンが何となく理解した、といつの間にかあんな遠くまで行ったユーリの後ろ姿に頷いた。
「何?ナマエがどうかしたの?」
「いやー。ガキんちょにはまだ早い早いわ。」
「何それ!!」
「…わふ。」
「ラピードまで…」
ユーリがナマエを担いで何処かへ行ってしまう程刺激が強いものをカロルには見せられないとレイヴンはわざとらしくカロルの目を塞いだ。だが、多分カロルにそんな刺激はまだわからないだろう、とラピードは小さく欠伸をした。
[*prev] [next#]