君のためなら仕方ない






「エメラルドの作った料理、食べてみたい」

『…ん?』

レスタルムで薬類の買い出しをしている時だった
個々に用を済ませちょうどノクトと2人でお昼を食べようという話になり、チキンライスが運ばれて来た時だった

『…どうしたのいきなり』
「いや、なんとなく」
『…ふーん。』

一口ぱくり、と食べて味を噛み締める
この3色のルーがたまらないなぁ…。これでこの値段は安い!なーんて思いながら食べていた時だった

「…で、どうなんだよ」
『ん、何が?』
「手料理、食べてみたいって話」
『え゛、やだ』
「…なんでだよ」

一度食べる手を止め口の中が空っぽになるのを待つ
私達はその…、恋人同士だけど中々2人でいられる時間がない、だからこそこういう時間は貴重なのだ。
そんな中ノクトが手料理が食べたいなんて言って来るのは珍しいと思う
でも料理だけは、作れる自信がなかった。だって…

『…ノクト、あんなに美味しいイグニスの料理食べてたんだよ?』
「だからなんだよ」
『それに比べたら私の料理なんて比べ物にならないよ』
「それとこれは話が別だろ」
『別じゃないよ、私料理下手だもん』

ノクトに変な物食べさせられないよ。と言い放つとちょっと元気がなさそうにそーかよ…と返ってくる。
それからは食べる手を止めずに完食までお互いに喋る事は無かった
拗ねちゃったかなぁ、と考えるがやはり料理を作る自信は無い。ノクトには申し訳ないが諦めて貰おうと思った





宿に帰るとノクトは昼寝をすると言いベッドへと向かって行った。奥のキッチンの方からは甘い匂いが漂ってくる
きっとイグニスが何か作っているんだろうと思いキッチンに行くとガトーショコラを作っているようだった

『出来具合は如何ですか、シェフ』
「…いつからシェフになったんだ俺は」
『もう完成?』
「ああ、あとは粉砂糖をかければ完成だ」
『さすがイグニス、手際がいいねぇ』
「昔から作っているからな、…食べるか?」
『食べる!』

イグニスがガトーショコラを切って食べやすいサイズでお皿に乗せてくれる。
一口あむ、と食べると口の中に心地よいほろ苦さと甘さが広がった
ふと先程のノクトの言葉を思い出す。


「美味しくない、か?」
『ん!?んーん!全然!美味しい!さすが、って思ってた』
「そうか、ならいいんだが…」
『…あのさー、イグニス』
「どうした?」
『…もしイグニスが料理をした事がなくて、でも大切な人に手料理が食べたいって言われたらどうする?』
「そうだな…」

うーん、とイグニスは考える素振りを見せる
料理をした事がないイグニスなんて想像が出来ないけど例え話だから仕方ない

「もし俺だったら…自分が一番作れそうだと思う物を練習をしてみて上手くいったら食べてもらう、だな」
『…そっかぁ』
「ノクトに手料理が食べたいと言われたのか?」
『え、な、な、なんで分かったの』
「普段からあまり相談しないエメラルドが例え話をするくらいだからな、分かるさ」
『う…まぁ、そうなんだけどさ…』
「嫌じゃないなら、作ってみてもいいんじゃないのか?」
『…だって、私イグニスみたいに素敵な料理作れないもん』
「見た目じゃなくて、誰のためにエメラルドが料理を作るって言うのが大切なんじゃないか?」
『…ノクトは優しいから、まずくても美味しいって言いそうな気がして』


何かと理由をつけて否定してしまう自分に嫌気がさす
落ち込んでいると、イグニスに頭を優しく撫でられた

「練習でいいから一緒に作ってみないか?やってみて、一人で出来そうならノクトに作って見れば良いさ」
『…うん』

とりあえずやってみよう、と午後はイグニスに料理を教えて貰う事になった。
レスタルムにはまだ滞在予定だった為、次の日も午前中から練習を重ねる
ノクトに見られるのはなんとなく嫌だったのでプロンプトとグラディオに外へ連れ出して貰った
トントン、とまな板の上を包丁が動く音が聞こえるがピリッとした痛みが手に走ると反射的に包丁を離してしまい、まな板の上に落下していく

『痛っ…!』
「大丈夫か!」
『うええ平気…』
「慣れないうちは仕方ないさ」
『でももう8回目だからね、切るの』

ぺたり、と絆創膏をイグニスに貼ってもらう
自分の手を見渡すともう8箇所に絆創膏が貼られていた
痛々しい手を見て、ポーションを使おうとしてるイグニスを静止する
へらへらと笑い、よし!と意気込むとまた練習を再開しようとした

『これにポーションは勿体ないよ』
「怪我は怪我だろう、傷が残ったりしたら」
『大丈夫だって、私用なんだしさ』

チチチとフライパンに火をつけて準備をする
だいぶまともな料理が作れるようになったのではないか、と思う
そこまで大した料理ではないが私からしたら大きな大一歩な訳で…出来れば今晩にでも出せればいいな、と考えると自然と準備の速度が早まって行った





夕ご飯時になると、ちょっと来て欲しいとノクトを呼び出す。不思議そうな顔をしていたのでとりあえず座ってとソファに座って貰った
お盆にご飯を乗せて来るとノクトの前のテーブルにお皿を置いた

『はい、これ』
「…これって」
『食べたいなら、これ飲んでからじゃないと食べさせないからね』
「鬼か」
「嫌なら食べれないよ?」

ノクトに作ったのは親子丼だった
彼の好物だし作りやすかったと言うのもある。もう一つのお皿には野菜スープが入っている
これを飲まないと親子丼は食べられないという仕組みだ

ふふん、とした顔でノクトを見ると彼の隣に腰掛ける
彼は小さな声で頂きます、と言うと野菜スープをじーっと見つめる。すると両手でスープのお皿持ち一気に飲み干し始めた、まさかの行動に驚き私は言葉を失ってしまう
ドン、とお皿をテーブルに置くとお皿の中身は空っぽになっていた

『…ノクトが野菜を…』
「だってこれ飲まないと食べられないんだろ?」
『まぁそうなんだけど』

スプーンを取ると、ノクトは黙々と親子丼を食べ始める
どんな反応をするのだろうかと私は内心ドキドキしていたので食べ終わるまで私は黙って彼が食べる姿を眺めていた
暫くしてごちそーさまでした、と彼がお皿を置く

『…どうだった?』
「イグニスの料理より美味かった」
『…んな訳ないでしょーが』
「嘘ついてどーすんだよ」
『ノクトは優しいからお世辞言うって分かってるもん』
「本当に美味かったって」
『野菜もいつもこうなら助かるのになぁ』
「それは無理だな」

ノクトがこちらに身体を向けると自然と見つめ合う形になる
なんだか恥ずかしくてわざと視線を逸らすと両手で手を触られ、手に貼ってある絆創膏をなぞられた

「練習してくれたんだろ」
『な、なんで知って…』
「イグニスから聞いた」
『お喋りめ』
「これ、治さないのかよ」
『…うん』

頑張った証だし、ね。とぽつりと呟く
すると彼は手で私の頭を引き寄せお互いの額がコツンと当たるとありがとな、嬉しかったと呟いた
ん、と返事をすると頬に手を添えられ ちゅ、と軽く唇にキスをされる
お互いに抱きしめ合い、束の間の幸せを楽しんだ











(2人してお熱いこって…)
(今後はエメラルドに作って貰えばノクトは野菜を食べるんじゃないだろうか…)
(そう上手くは行かないでしょー)

(おっ、オイお前ら何覗いて…!)
(あ、2人ともノクトにバレちゃったよ)


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