私は生前、「僕のヒーローアカデミア」という漫画に釘付けだった。
友達と自分の推しについて語り明かした日もあった。
推しの個人回で涙する日もあった。
アニメから入った私は、漫画を全巻買おうと思いいたって外出した。
何てことはない。
車を運転していたドライバーが居眠りなのか持病を拗らせて気絶したのか、暴走する車が私のいた歩道に突っ込んできた、よくある事故だ。
恐らく即死したのだろう。それからの記憶なんて全くない。
ただ、次に私が目を覚まして目に入ったのは見知らぬ男女のデレデレに溶けた表情だった。
ペットや赤子に見せるその表情を間近で見て気持ち悪さを感じた私は悲鳴をあげたが、
"いやぁぁぁぁあ!!"
という悲鳴は舌足らずな赤子の泣き声に変換されていた。
「あぁぁぁああぁあ!!」
「きゃぁぁ!ナマエちゃんごめんねぇ!!」
「ずっとほっぺ触るからだぞ!ナマエちゃぁん、ほら、大好きなシロクマさんだよぉ」
身に覚えのない名前で呼ばれ、"大好き"と主張したこともないシロクマのぬいぐるみを手渡され、困惑した。
この二人は誰だ。
私の手は何故こんなにもぷにぷにで、すべすべの理想の肌となっているんだ。
私はどうやら、転生を果たしたらしい。
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