「お前ほんっと武器の扱い下手だなぁ」
「…………こんなもの使わなくたって強いもの」
「あー!!お前!!俺は傷ついたぞ!!深く傷ついた!!」
ウソップのパチンコを借りて的に当てようと、即席で作って壁にぶら下げた木の板。
水性のペンキを内蔵した玉を使って狙うものの、威力は申し分ないが狙いが全く定まらない。
スナイパーライフルみたいに狙うスコープがあるわけでもないのに、どうやって狙いを定めろと言うんだ。
「今ライフルみたいにスコープなきゃ無理だとか思ったろ。」
「………うん。」
「この前ソレを扱ったときの結果は?」
「何故か後ろに弾が飛んだ。」
何かに跳ね返った訳でもないのに何故か後ろのルフィに当たって何処かへ弾き返された、
あれがルフィじゃなかったら私は今頃仲間殺しだった。
「そうだな。つまりお前は武器音痴だ。」
「……細かい作業が苦手なのよ…しょうがないでしょ。」
「細かい……そういやお前料理してるとこ見たことねぇな。バラティエにいたのに。」
「………………」
「え、まさか」
そうだ。私は料理が苦手だ。
細かい力加減がどうしても上手くいかない。
まな板と包丁は一回でゴミと化す。
揉み込んで空気を抜かないといけない物も握力で小さく固く固まる。
生まれてこのかた最後まで料理をさせてもらったことなどない。
「お前……バラティエで何してたんだよ…」
「用心棒」
「いや要らねぇだろあの船!!」
「無理矢理話進めて勝手に守ってたわ。」
ゼフさんにいらないと言われたけれど、料理以外で彼の近くにいられる立場がソレしかなかった。
私には怪力と長年磨きあげた容姿しかない。
「おい、自分で容姿自慢すんな」
「あら、じゃあ私をブスだと言いたいの?」
「いやちげぇけどよ。」
「ドブスじゃなきゃ自慢するべきよ。化粧でなんとかなるんだから。」
クレアさんのような綺麗な女性になりたくて、ゼフさんの隣に並んで恥ずかしくないよう、
身だしなみには気を付けていた。
服装は前にナミに指摘された通り大人び過ぎていたけど、
肌の手入れや体型の維持には常に気を張っていたわ。
「海賊だけど私の肌に傷つけられる奴なんてそうそういないしね」
「お前の肌に届くのはゾロとかサンジ、ルフィくらいだろ」
「そうね。あいつらそこそこ強いし。」
「あれをそこそこっつーんだからほんとに怖ぇな」
当たり前じゃない。
天小人なんだから。
天小人は本来、空島にいたとされる人類の1つ。
空島から巨人族の島に降りてきて、その戦闘力は3歳の幼子がやっと巨人族と同等の怪力を持ち、彼らは"天の小人"と呼んでいた。
既に小人族がいて、大きさも性質も異なるため、種類を名付ける際にその話を参考に天小人と名付けられた。
「そもそも彼らと私たちじゃあ土俵が違うわ。」
「じゃあお前の故郷にはお前より強いやついんのか!?」
「そうね。私は弱い方だと思うけど」
「ひぇぇぇえええええええ!!なんだその島!!絶対ぇ行きたくねぇ!!」
「私もサンジの前で敗北する姿なんて晒したくないわね。なるべく行きたくないわ。」
あの島に着いたらまず、私は船から降りないでしょうね。
そう思って、嫌な思い出が頭に浮かびそうになったとき、ウソップが"でもよ!"と話を続けた。
ウソップは私にパチンコを持たせると、戦場では見せない笑顔でニッカリ笑って、
「お前が武器使えたら、そいつらにも勝てんじゃねぇのか!?」
「え、」
「強ぇー!お前とちょーーーう強ぇー!俺開発の武器が合わさったら、勝てるやつなんていねえだろ!」
「え、でも…わたし武器使えない…」
「だから!お前でも使える武器を俺様が作ってやるってんだ!!な!?」
キラキラと目を輝かせて話すウソップに戸惑いが隠せない。
そんな単純な話というわけではないだろうけど………
だけどこういうときに限って、普段ネガティブなウソップが自信を持つのがなんだか可笑しな話で、笑えてしまう。
「……ふふ、そうね。最強になっちゃうかも」
「そうなりゃ百人力だァ!!いいか!!お礼に俺を守れ!!」
「嫌よ、ナミならともかく男なんて」
「んだとぉ!?」
結局、彼の作っていた武器が私の手に渡ることはなかった。
彼には無駄な時間を使わせてしまった。
「入れ。」
「…………」
森の奥にたたずむ小さな小さなボロボロの小屋。
扉を開けて入るよう促す男の声なんて耳に届かない。
あの頃の、小さな私が壁掛けの手錠に繋がれている。
小さな女の子は血反吐を破棄ながら口を動かす。
"おかえり、私"
ただいま。
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