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動乱編後の沖田をなぐさめる



沖田は普段、仕事の話をしない。私の前では隊服も着ない。怪我をしているところを見たことすらないので、時々、本当に真選組なのかと疑うほどだった。

今日、彼は隊服で、とてもボロボロになって帰ってきた。驚いた私はつい「何があったの?」と聞いてしまった。すぐさま発言を後悔したのは、なんとなく、彼は私に仕事の話をしたくないと思っていたからだ。案の定、沖田はしばらく沈黙した。
けれどやがて、静かな声音で「副長になり損ねた」と呟いた。それがどういう意味なのか問いかける前に真正面から思い切り抱きつかれる。ますます驚いた私は、やり場をなくした手を宙にさ迷わせて固まった。
痛いぐらいに抱きしめられて、彼にとって今日が、何か特別な意味を持つのだと直感した。

「あのさ……」

背中に回された彼の手が、ピクリと動いた気がした。私は慎重に言葉を紡ぐ。

「私、沖田が一生、平社員でもかまわないから」
「……」
「私も働くから。万事屋でも、お妙ちゃんのところでも。大丈夫だから。出世できなくたって、二人で頑張れば――」

突如突き放され、デコピンを食らう。

「痛い!なにすんの!」

額を抑えて抗議すると、呆れ顔に覗かれる。

「あまりに見当違いだから、思わず手が出た。自惚れんなブス」
「!?人が必死で励まそうと……」
「この恋愛脳が」
「痛い!またぶった!」

騒ぐ私が面倒になったらしく、彼は離れて洗面所へ向かってしまう。泥や血をなすりつけられた私も後からついていく。珍しく石鹸を使って手を洗う後ろでぶつくさ文句を言っていると、沖田が何の気なしに会話を続ける。

「俺が甲斐性ねぇみたいな言い方やめろ」
「だって副長になれないって」
「なれないとは言ってねェ」

水をかけられて反射で目を瞑った。顔を拭いながら瞼を開けると、目の前に沖田がいた。瞬間、心臓が高鳴るのはトキメキではない。捕食される獲物が抱くような、恐れや本能的危機感だ。
こういう時、私は彼が真選組だということを猛烈に痛感する。だけどおそらく、彼はこういう時、最も己の立場を忘れている。

「ブスにキャバ嬢は無理だろ」
「それ今言う!?」
「他の男に媚びへつらって稼いだ金、俺に貢ぐって?悪女だねィ」

あ、楽しそうな顔。でもちょっとイラついている。つい見とれて呆けていたら、唇が重なった。沖田は口の端をわずかに釣り上げる。

「目を閉じな」

素直に従えば、今度は焦らすように距離を詰める。私は彼が、何もかも脱ぎ捨てて、ただの男の子になるこの瞬間が、たまらなく好きだ。

190113