一撃男 | ナノ


▼ プレゼントは語りだせないまま

今日も彼女はお店へ来た




「いらっしゃいませ」

「席に案内してちょうだい」

「はい、ただいま」





彼女がこの店に来るのは何回目となるのだろうか

私のシフトが入ってない日も来ているのだと店長は言ってましたが



服装はいつも通り




「本日はいかがなさいますか?」

「…いつものでいいわ」

「かしこまりました」



いつからか、彼女は注文も常連客ぽくなってきていました


ヒーローネームを『戦慄のタツマキ』さんというその女性は

最初こそツンツンしていて、正直接客はびくついてましたが

良い点は褒めて、気に入らない点は真っ直ぐ言う


そんな彼女を尊敬しはじめました






私は、彼女ほど強くはなれなく



言い出しづらい雰囲気だと、曖昧な小さな嘘をついてしまう

私はすごく弱い






彼女は、なんだかサイタマさんに似ている気がします

これが、ヒーローの共通点なのでしょうか


お冷を注ぎ足すグラスがないかと、お客様を見渡していたら


奥の席に座っている戦慄のタツマキさんに呼ばれた




「ねぇ、あんた」

「はい、お客様ただいま」

「ここってオーダーメイドでケーキを作ってもらうことはできるの?」

「オーダーメイドで、ですか」

「そうよ」

「えと」

「もしかしてわかんないの?使えないわね」

「す、すみません」

「さっさと店長に確認してきて」

「は、はい!」

「私の時間は貴重なのよ、無駄に使わせないで」

「すぐに確認してまいります!」






やっぱり、手厳しい方でした









さっそく、奥にあるキッチンで店長をみつけ先ほどの質問を確認した



「オーダーメイドね、種類と日時にもよるかしら」

「え、と…つまり、それは」

「付いてきて、大丈夫そうだったらケーキのご希望をメモしてね」




店長は、そそさく手を洗い表にでれるように支度する

隣で、常備していた小さなメモ張を取出し、私も心の準備していきます





戦慄のタツマキさんの近くまで行くと、店長が挨拶をし用件を伺い了承した

私にメモを取る準備をしてと言わんばかりの笑顔を向けられる




「では、ご希望の詳細をこの子にお願いしますね」

「話が早くて助かるわ」

「ごゆっくりおくつろぎ下さいね」




店長はそそさく奥に戻って行き、私は改めて注文内容を書き留めておくことに



「まず、大きさは任せるわ」

「は、はい!」



いきなり、おまかせコースなのだろうかと思っていると


戦慄のタツマキさんは具材をこだわるタイプだった模様です




その内容に、返事する間もなく、忙しく手を動かす



「いちごじゃなくて葡萄を乗せて」

「シュークリームでもいいけど緑よ、これぜったい」

「色素は身体に悪いから、アボカドかなんかで代用して」

「中にいれる果物だけどブラックベリーとブルーベリー」

「それと甘さは控えめで」

「大きさはおまかせだけど二段ケーキはだめ、あと丸いのがいいわ」

「あときざみ海苔も忘れないで」




途中でなんども、これはケーキなのかなと思ったり

むしろケーキだけど、罰ゲーム用の催しケーキなのかなと悩んでいると




彼女はメッセージを書いて欲しいと言い、私はしっかりと耳を澄ませ

その言葉をメモにしていきます








【フブキちゃん大好きよ!フブキちゃんが大好きなお姉ちゃんより】







これは妹さんへの贈り物でした

どうやらベジタリアンな妹さんなのでしょうか



お姉さんの戦慄のタツマキさんはとても細かく指定をしてきます




「あの子、スタイルに気をつかってるのよ」




それで、このチョイスは、確かに頷ける部分がありますね


内心、もう一度メモを見て間違いがないかを確認していると

戦慄のタツマキさんは仕事が入ったようで

お会計をお願いしてきました、オーダーメイドのケーキに関しては

現金で見たこともないほどの前金を頂きました





こんなに受け取れなく迷っていたら


「このお金で最高級の品質を揃えて作って」とのことで、受け取り



お仕事が入った、ということはお急ぎでしょうから

後ほど、店長にご指示を仰ぐことにしました





ドアノブに手をかけた瞬間に何かを思い出すようにして

戦慄のタツマキさんが、こちらを向いた






「スポンジは、ほうれん草生地の緑色でお願いね」






その表情から読み取れるのは間違いなく

まごうことなき大好きであろう妹さんへの気持ちなのですが



全てを書き留めたメモ帳を見直した限り


彼女は妹さんを大事にし過ぎて斜め上を言っているのでは、

と考えてしまい他人のご家庭事情に首を少し突っ込んでしまいました。



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