▼ 当事者の意見がだいじ
私が身支度を整え、下に降りた際にはもう誰もいなかった
飼い主のジェノスくんは姿を消していて、サイタマさんもいない
代わりにペットのゴリラだけが残されていた
「…ゴリラ?」
「…ああ、そうだ」
「…喋る、ゴリラの着ぐるみの中に人?」
「俺はサイボーグだ」
ジェノスくんがサイボーグだからペットもサイボーグしているんですね
だから喋れるんだね…それはむしろ都合がいい
そんなゴリラの隣に座り込んで、事情を聞くことにした
ジェノスくん、自分のじゃないって主張してたし
「ねぇ君の飼い主って…ジェノスくんなんですか?」
「俺は進化の家のナンバー3だ」
「あ、ジェノスくんのペットじゃないんですね」
「ああ、違う」
よくよく考えれば、確かに彼は…自分より小さい動物を可愛がりそうだと思った
「進化の家ですね…少し待っててください」
少し先にある公衆電話ボックスからダウンダウンページを持ってくると『進化の家』を見つけた
「あ、もしもし…先ほどお宅のペットが突然じゃれあいはじめて…ええ、はい…」
ペットをリードもつけずに野放しにしてるあたり面倒な相手なのかもしれないなんて考えていましたが、思いのほか進化の家の丁寧で対応はよく修理代と慰謝料を貰えるということになった
男のひとが出てきたから、おそらく一家の大黒柱なのかもれしない
そしてもう一軒電話して、ゴリラのもとへと戻っていく
「いま、輸送車を呼んだのですぐにお家へ帰れますよ」
「バカにしているのか、俺は半壊しているがおまえのような小娘など今の俺でも」
「保健所に行きたいんですか?」
「輸送車呼んでくれてありがとうございます」
「どういたしまして」
ゴリラはしばらく私をじとっと見ていた
よくわからないけど、向かいというか輸送車が来るまでゴリラと一緒に待っていることした
「俺がこわいと感じたりしないのか」
「ゴリラは握力つよいっていうけれど、もう両腕ないですし」
「…そうか」
「それに、私は動物好きなので可愛いと思いますよ」
「…!」
「よくよく見たらマスコットキャラクターみたいですよね!」
ゴリラは黙り込んでしまった
ペットとしてのプライドがマスコットキャラクターを許さなかったのかもしれないとか考えていると輸送車は無事こちらへ到着して、ゴリラを乗せて住所を教えて一件落着した
「あー、ここ遠いですねー」
「そうですね、スピードは遅めにお願いします。ゴリラなんで車酔いするかもしれませんし」
「わっかりましたーあと支払いの方なんですがー」
「着払いでお願いします」
「はーい、毎度―」
軽やかそうな輸送車のお兄さんはゴリラを連れてその場を去り、彼の故郷へと帰っていった
それにしても、ジェノスくんに悪いことをしたかもしれないと少し疑った事と決めつけてしまった事を悪く感じた
何かお礼をなんて考えていたら、今日が土曜日なのと彼はサイタマさんを慕っているようなので鍋をごちそうすることにした
「今日は特売日ですし…お肉も多めに買えますね」
家に戻り、いつものエコバックを手に持ちスーパーへと繰り出した
prev / next