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▽ウサギの涙

「なぁらび、海行かね?」

俺がそう言ったのは、戦況が落ち着いてきたのを見計らっての事だった。
攻めてきた幕府軍の中心をようやく叩き今日に至るまで、こちらの被害は決して軽視して良いものではなく怪我人、食糧難、ついには発狂する者も出ていた。そんな中でもらびは寝る間を惜しんで俺達の手当てをし、試行錯誤して薬を作り、山に薬草かなんか採りに行って遅くまで帰って来なかった日はさすがにヅラと高杉と俺で怒った。

「海?」
「おお」

らびは洗濯物を畳み終えると「うーん」と考えるように首を傾げる。
息抜きをさせてやりたくて提案したのだがこの様子だとあまり乗り気ではなさそうだ。襖に預けていた背中を離してらびの元へと近寄り隈がうっすら出来ている目元を指でなぞる。

「まぁ海に行くにしても行かないにしても今日のお前の今日の仕事はそれで終わり、それ以上は働くな」
「え」
「ほい、その繕い物も置く」
「……坂田君」
「お前に倒れられでもしたら俺らどうすんだよ」
「……じゃあ、今日は坂田君の言葉に甘えようかな」
「……」
「海、行きたいな 」

****

「わ、綺麗」
「ん、あんま冷たくねぇな」

午後、らびを連れて少し離れにある海岸まで歩いてきた。海水浴場ではないのか人は一人もいなくて、ただ波の音だけが響いていてとても心地いい。
らびは足袋と草履を脱ぐと俺と同じように海へと足を浸す、着物が濡れることを気にしているのか裾を膝辺りまで捲っているので普段は隠れている白くて細い足が晒されてて眩しい。

「海なんて久しぶりだね」
「あー確かに」
「先生達とスイカ割りしたときの事、覚えてる?」
「ヅラが棒の方割って高杉がこけたやつだろ」
「そうそう、結局誰もスイカ割れなくて先生が割ってくれたんだよね」
「……粉々にな」
「あれ、そうだっけ」
「食える所の方が少なかった」

あはは、そうだったね。
らびの声が風に流れてくのを聞きながら水を足で掻き分けるようにして歩いて行く、らびも俺の後ろに着いてきているのか水が跳ねる音がした。
嘘みたいに穏やかな時間に自然と頬は緩む。

「いたっ……」
「らび?」
「あ、ごめん、何でもないよ」

ふと下に視線を落とせば透明な水にうっすらと赤い線が浮かんでいた、貝か何かで切ってしまったんだろう。俺はらびを抱えると海から出て砂浜に座らせ、傷口を確認した。そんなに深くはないが少し血の量が多い。

「とりあえず布巻いとくから」
「え、汚れるよ」
「今さらそんなん気にしねぇから」
「……ごめんね」

申し訳なさそうに目を伏せるらびのでこにでこぴんをして「ばぁか」と笑って見せる。

「謝らせる為に来たんじゃねぇし、お前は何も悪くねぇだろ」
「でも、」
「ほいできた、帰りはおんぶな」
「い、いや、そこまでしてもらわなくても……!」
「お前なぁ、素直に甘えとけっつーの」
「…」
「今日は坂田君に甘えるんだろ?」

そう言えばらびは一瞬驚いた顔をして、でもすぐに「そうだったね」と笑った。やっぱりいいな、こいつが笑った顔は。
それだけで俺も笑いたくなるし、こいつがここにいる事すら奇跡に思えてくる。ガラじゃねぇけど、ほんとにそう思う。

もう俺はこいつの事下心なしで見れねぇ、それはあのチビも電波もそうだ。三人とも譲るなんて性分じゃねぇしこれからの道のりどうなるかなんて、分かりもしねぇけど……

「坂田君、今日はありがとう」

このちっぽけな奇跡を守る事が出来んなら俺は何だってしてみせる。たとえ……

「やっと見つけたぜクソ天パ…」
「姿が見えないと思ったらやはりらびを連れ出していたか」
「お前ら2人で勝手に……、らびお前、怪我したのか?」
「貝か何か踏んじゃって…でも大丈夫だよ。坂田君が手当てしてくれたから」
「全く……黙っていなくなるなと言っているだろう」
「抜け駆けはすんな、ってか?」
「!」
「!」
「抜け駆け?」
「ヅラ、久しぶりにスイカ割りでもするか?スイカ役は銀時で」
「棒が見当たらないから真剣でも良いな」
「お前らほんとに嫉妬すんな、めんどくせぇから」

幼馴染みが相手だろうと、な。

****
ウサギの涙番外編で攘夷銀時目線のデートの話。

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