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▽家族始めました。

夏休み最終日、縁側に座りオレンジ色に染まっていく空を見ながら夏の終わりを実感する。髪や服を揺らしていく風は、昼間のような温かい風ではなく秋の始まりを知らせる少し冷たい風だった。
家の中からはお風呂を終えた白石君達の賑やかな声が聞こえてくる、私は立ち上がって冷蔵庫に冷やしてあるスイカを取り出した。

「名前さん?」
「あ、財前君」

スイカを手に台所から出ると髪を拭いながら歩いてくる財前君が私が手に持っているスイカをめずらしそうに見つめながら近付いてくる。

「スイカっすか」
「夏もそろそろ終わりますし、縁側で食べましょう」
「あ、花火買ってましたよね」
「……ああ、ありましたね」

数日前にコンビニに冷たいものを4人で買いに行った時に財前君がじっと手持ち花火を見つめていたからつい買ってしまったのだ。いつ出来るかも分からないまましまっておいたが、やるとしたらもう夏休み最終日の今日しかない。
財前君の目が「やりましょうやりましょう」と訴えているので笑いを堪えながら「とってきてくれますか?」と言えば、ほんの少しだけ頬を紅潮させて2階へと上がっていった。

****

「たくさんあるなぁ」
「たくさん買いましたからね」
「謙也、財前君、ちゃんと取扱説明書読みや」
「…これ、ススキ花火」
「やりたいんですか?」
「はい」
「えーと…あ、財前君、人や建物に向けたらダメですよ」
「向いとる!向いとる!!」

謙也君の焦った声に取扱説明書から顔を上げて見れば謙也君にススキ花火の先を向けている財前君が。謙也君は財前君からライターとススキ花火を奪おうとするがひらりとかわされる。財前君楽しそう、すごく楽しそう。

「謙也さんならかわせるんとちゃいます?多分」
「多分をつけんな!」
「危ない事はしたらあかんで、名前ちゃんに迷惑かかるやろ」
「俺の身の安全は!?」

楽しそうな3人を横目によく冷えたスイカを一口。
みずみずしくてとても美味しい、一人だとスイカ一玉食べきれないし熟しすぎちゃうからここ数年ずっと買っていなかった。でも今年は財前君達がいるから思いきって買ってみたけど、……思いきって良かったなって思える。

「名前さん、線香花火」
「わ、ありがとうございます」
「あと、ついてますよ」
「え?」
「種」
「!!」

財前君の指摘に慌てて口元を拭うが「逆っすわ」と指を伸ばしてとってくれた。
自分よりも年下の男の子なのに仕草や表情がとても大人っぽく見えてつい変な声が出てしまう。恥ずかしさで顔を赤くしながらも財前君から線香花火を受け取って火をつけた。

「綺麗ですね」
「線香花火って動くとすぐ落ちるから苦手っすわ」
「ふふ、座って眺めてたら落ちませんよ」
「あ"ー!落ちてしもた!!」
「謙也、お前忙しなさすぎんねん」
「俺向いてないわ……線香花火」
「謙也には風情の欠片もないからな」
「それ関係ないやろ!!」
「……謙也さんは予想通りやな」
「ロケット花火の方が向いてますね、斜め45度で持つと長持ちするそうですよ」

キラキラピカピカ、花火が燃えていく。
夏の終わりはいつも寂しかった、楽しいこともイベントもたくさんある夏だけど……いつもやり残した事がある気がしてならない。

「名前さん?」
「!はい」
「なにボーっとしてるんすか?」
「ちょっと考え事を……」
「名前さんの線香花火、綺麗っすわ」

私の手元にある線香花火は、音をたてながら大きく花を咲かせていた。
隣にいる財前君のピアスが光に照らされていて目にまぶしい、キラキラピカピカ、光ってる。

「光……」
「……!」
「なんか、ピッタリですね。財前君の名前……」
「……?」
「キラキラピカピカしてます、財前君」
「それは…花火とか、ピアスのせいっすか?」
「それもありますけど、私にとっては白石君も謙也君も財前君もキラキラしてますよ」

私の日常を明るく照らしてくれる、ピカピカの光。

「私、夏の終わりって苦手なんです。色々……やり残した事がある気がして、でも…今年は良い夏です」
「……」
「財前君達がいてくれますから」
「……俺がおらんくなったら寂しいっすか」
「もちろんです」

私の言葉に財前君は一瞬顔を伏せるとそのまま私の肩に頭を乗っけてきた。
その軽い衝撃で線香花火を持っている手が揺れたが火種は落ちずにまだ花を咲かせてる。財前君の顔は見えないけど、笑っている気がした。

「しゃーないから寂しがり屋の名前さんの為にずっと傍にいたりますわ」
「ふふ、ずっとですか?」
「ずっとです」

今まで苦手だった夏の終わりに
私はずっと欲しかった言葉をもらった。

*****
家族始めました。で財前とのお話。

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