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先生の近くにいるときはまさにぬるま湯の中にいるみたいだった。たまにうるさい銀髪やしつこい長髪が割り込んでくる事もあったし、そのたびにアホみたいな喧嘩になってそのたびに先生から情け容赦ない拳骨もらったけど、それでもぬるま湯みたいに出たくない日々だった。
そんな日々を壊されて、自分に残ったものは憎しみだけ。こんな国こんな世界全て壊されてしまえば楽になれる、そう思っていた。今も。

笑い声も、子供を呼ぶ親の声も、かけていく足音も、

自分の笑い声も、自分を呼ぶ先生の声も、かけてく足音も、

全部無くなってしまえば、俺は楽になれるんだろう?

「高杉さん」
「……あぁ?」
「いえ、目開いたまま寝てるんじゃないかと……」
「寝てねぇよ」

名前を教えてからこいつはよく俺の名前を呼ぶようになった。下の名前を教えなかったのはわざと、信用も信頼も出来ないガキに教える義理はない。
それでもこいつは「良いです別に」といつものアホ面でへらりと笑った。
頭のネジが何本も抜けているバカにつける薬はないらしく、昔のモジャモジャ頭を思い出してイラついた。

「お前、俺以外としゃべる奴はいねぇのか」
「いますよ、高杉さんが来ない日に来るお客様とか」
「客以外でだ」
「いますよ、タダで食べに」
「……確かに客ではねぇな」
「でも、良い人達なんです」
「お前にかかりゃ世の中の人間全員がその良い人達とやらに見えるんだろうがよ」

皮肉のつもりで言ったつもりだったのに、こいつは「そんな事ないですよ」と笑った。
今までよりも、ずっと俺好みの笑顔で。
そしてスッとその細く小さな指で江戸で一番でかい城を指差す。俺が壊したいと思っている城だ。

「あそこにいる人達は、嫌いです」
「…………」
「幕府は、嫌いです」

刺のある口調に歪んだ笑顔、本人はいつも通りに笑っているんだろうが先程までの平和ボケした笑顔とは似ても似つかない笑顔だ。

きっと俺も、今のこいつと大して変わらない顔をしているのだろうと濁ったその黒い瞳を見て思った。

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