ドカン!と吹っ飛ぶドアを見つめながら煙管に口をつける。
ノック代わりにドアをぶっ壊す奴なんてこの船に一人しかいない。相変わらずアホ毛を携えた憎たらしい男は「お腹空いちゃった」と爽やかにたかりに来たようだ。
「俺の所に来るのは検討違いだ」
「たかりに来たんじゃないよ、食べに来たんだ」
「てめぇの部屋で食え」
「地球の食べ物は美味しいよね、タイヤキ?って言うんだこれ」
いつも通りの笑みを浮かべてバカでかい袋を床に下ろす、中身は全てたい焼きのようだ。
夜兎族は全員こんなバカみたいに大食いなのか、だがこいつの保護者の男はそうでもない。わきまえてるのか常人並みなのかどちらにせよ大食らいよりはマシだ。
「ねえシンスケ」
「あ?」
「俺、会っちゃった」
「……」
「女の子、シンスケが会ってた」
文脈から銀時に会ったのかとでも思ったがこいつから出てきた女の子、という言葉に煙管を持つ手に力が入った。
「何のつもりだ…」
「だって女に身を堕として俺と戦うときに前みたいな覇気がなくなったら大変でしょ?」
「……そんな風に俺がなると思ってんのか?」
「出る杭は打っとくもんだよ?鳳仙だって吉原の女に身を堕としてあんなになっちゃったし」
でも、と言ってそいつはたい焼きを頬ばる。
人の部屋汚してんじゃねぇよ。
「杞憂だったかもね。あ、殺してないから安心してよ。シンスケが別に弱くなったとは思ってないし……相変わらず物騒な目してるし」
「てめェにだきゃ言われたかねぇ」
「あの子、ただのアホ面した子じゃないんでしょ?」
「……」
「そうじゃなきゃあんな小動物シンスケが相手しなさそうだし」
「思ったより、愉快な人生送ってやがる。憎んでるもんはてめぇの食欲より巨大かもなァ」
「それはすごい」
あれだけあったたい焼きがみるみるうちに無くなっていく。
咀嚼しながら「じゃあ、」と続けるそいつは相変わらず食えない笑い顔。
「シンスケはあの女の子が気になって仕方ないわけだ」
「…今ここで斬り殺されてぇのか」
「だって、シンスケの目がそう言ってる。ほっときたくないってね」
「……それ以上しゃべんじゃねェ」
「シンスケの腕が落ちるわけじゃない。なら俺は何も言わないよ、たとえそれが……」
「しゃべんなっつったのが聞こえなかったのか」
喉元に刃を突きつければ口を紡ぐが憎たらしい笑みは消えない。
人の中にまでズカズカ入り込んで来やがって、
「ごちそうさま」
笑顔のまま出ていく男。
残された俺は静かに刀を鞘へとおさめる、あれ以上続けるつもりならば本気で斬るところだった。
恋と呼ぶにはうすら寒く愛と呼ぶには簡単すぎる。
誰にも理解されたくないこの感情の捨て方が、未だに分からない。
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と言いつつもやっぱり高杉には孤高でいてほしい気持ちがあったので布石をうっておいた神威。
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