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その日はただ買い物をしているだけだった。
お店はお休みして私服の着物に身を包んでアクセサリーを見たり、常連さんの所に顔を出しに行ったりごく普通の日だった。
お昼頃になってご飯代わりにたい焼きを買い、人があまり来ない公園で食べようとした瞬間に、目の前に何か降ってきた。降ってきたというか、爆発した。
食べようとしたたい焼きが袋の中に落っこちて、開けっぱなしの口に砂ぼこりが入る。

「げほっ、げほ……!」
「ありゃりゃ、着地失敗」

失敗という割にはニコニコ笑顔で服を払って立ち上がる三つ編みの男の子。
ピョコン、としてるアホ毛が何だか可愛い。
チャイナ服を着て渋い傘を持っている姿はよく店に来る女の子によく似ていて思わず見ていたら「初めまして」と挨拶された。

「え、あ、初めまして?」
「見失うかと思って急いじゃったよ」
「……見失う?」
「君に会ってみたくてさ」
「…………つけてきたって事ですか?」
「そう、ご名答」
「嬉しくないです……」

初対面の人に何で休日につけられなきゃいけないんだろう、と思いながら袋からたい焼きをもう一度出すとその人はひょい、と私からそれを奪ってパクっと食べてしまった。

「…………」
「うん、地球の食べ物は美味しいね」
「……それは良かったです」
「君に会いたかった理由はね、」

たい焼きを頬ばったまま唐突に語り出す男の子、相変わらずその顔から笑顔が消える事はない。

「シンスケとどういう関係か知りたくて」
「…………シンスケ?」
「え?知らない?タカスギシンスケ」

タカスギ、たかすぎ、高杉?
一瞬ピンとこなかったがすぐに一人の男の人が思い浮かんで「お店に来てくださる方です」と言えば「なるほど」とまたたい焼きを一口。

「高杉さんの知り合いですか?」
「うん、殺し合いの相手」
「え?」

殺し合い?知り合いじゃなくて?

「最近よくシンスケ出掛けるから、女でも出来たかなって思ってたんだけど、ほんとにこんなバカみたいにアホ面した女だったかー」
「罵り言葉が2重になってるんですけど…」
「でもまぁ、色恋沙汰じゃなさそうだしシンスケの腕が鈍る事もなさそうだし、とりあえず殺さないでおいてあげるよ」
「…………私殺されるところだったんですか」
「あとこれ、美味しいね?」

指差している先にはたい焼きの入った袋、こんな爽やかな恐喝は初めて見た。
見るからに嘘つきそうじゃないし、大人しく「どうぞ」と袋を差し出せば遠慮する素振りもなくたい焼きにがっつく。さようなら期間限定たい焼き。

「ま、女だろうと容赦はしないつもりだったけど君みたいな奴だと一捻りどころがデコピンでも殺せそうだしさすがに萎える」
「……なんか、すみません」
「じゃ、次はもっとたくさん用意しといて」

人の昼食奪っておいてさらに求めるつもりですかあなたは。
一瞬の殺意が芽生えたが、勝てる相手でもないので曖昧に微笑んでおいた。男の子は帰るのか傘をさすと公園の出口へと向かってく、

「あ、そうそう」

その道の途中で、振り返る。

「自分の身が可愛いならこれ以上シンスケに会わない方が良い」
「…………」
「あんたとシンスケじゃ、生きる道も世界も違うからね」

じゃあね、と今度こそいなくなる男の子の背中を見つめながら胸にぽっかり空いた穴がちくり、と痛むのを知らないふりした。

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