キスはチョコの味
今日は、バレンタインだ。
バレンタインと言ってもどうせ私には関係ないことだし、普通に過ごすことになる…と思っていたのだが。
「雑種、今日はバレンタインだろう。王たるこの我に献上することを許そう」
ん? 何を言っているんだこのAUOは。つまりは、チョコが欲しいってことなのだろうか。というか、ギルさんならそこらへんの道を歩いていればいくらでも貰えそうな気がする。ほら、性格は兎も角、顔だけは良いのだから。
「今、失礼なことを考えなかったか?」
「いえ、そんなことないです。チョコですか? ないですけど」
「我の聞き間違いか? 今、ないと聞こえたんだが」
「だから、ありませんって。今年は作ってませんよ」
「なん…だと…!?」
何でそんなに驚いた顔してるんですか。今年は上げる予定なんでないし、ギルさんと住むことになって生活費を切り崩しているのだ。チョコを買う余裕なんてない。
いや、でも少しくらい余裕あったら自分用に買おうかな、とは思っていたが。まさか、ギルさんのほうから催促してくるとは思っていなかった。
だって、ギルさんのことだからあげてもいらないと言ってきそうだったからだ。
「もうよい! 我はセイバーの所へ行ってくる」
「あ、晩御飯には戻ってきてくださいね」
多分、セイバーさんの所に行ってもすぐに追い出されるのだろうなと考えながらコタツの中に入る。コタツはぬくぬくして暖かい。
どうしよう、ギルさん拗ねちゃったかな…。仕方ない、コンビニで安い奴を買ってこよう。いらないと言われたら自分で食べれば良いし。
コンビニでそれなの値段をする奴を買ってきた。最初は安い奴で良いかな、とも思ったのだがそれだとそれで文句を言われそうな気がするのでちょっと奮発してしまった。
それからしばらくして、晩御飯前にはちゃんとギルさんは帰って来た。文句は言うもののちゃんと帰ってきてくれるのだから、マスターとしては嬉しい。あれ、マスター関係あるのかな。
「雑種。飯だ」
「いい加減、雑種って呼ぶのやめてくださいよ。私には瀬奈って名前があるんですー」
毎回毎回、雑種と呼ばれていたら嫌になる。でも、ちょっと慣れかけていたってのは内緒だ。
「瀬奈」
「はい…って、え?」
あれ、今名前呼ばれた? 聞き間違えじゃなかったら、名前を呼ばれたような気がするのだが。
「これをやろう」
そういって投げて渡されたのは小さなボックスだ。何だろう、これ。振ってみるとかさかさと音がする。首を傾げていれば、ギルさんから「チョコだ」と。へぇ、チョコなんだ…。って、チョコ!?
え、ギルさんが私にチョコをくれただと!?
「え、え? あ、ありがとうございます…」
ちょっと、ギルさんのことを見直したかも知れない。まさか、ギルさんのほうからくれるとは思ってなかった。というか、天地がひっくり返ってもないと思っていた。
「ふん」
ソファの上でふんぞり返っているギルさんは少しドヤ顔だ。ちょっと、うぜぇって思ったのは内緒だ。折角貰ったのだから、私もお返しをしなければならない。
「はい、ギルさん。安物ですけどどうぞ」
「む? チョコか? 今更遅いがまぁ、貰っておいてやろう」
コンビニで買ってきたチョコを手渡す。ちょっと嬉しそうなギルさんに頬が緩む。こうやって、慢心や普通にしていればなかなか良いのだがこの男は無理だろう。
「瀬奈。ちょっとこい」
「なんですか」
手招きをしているギルさんに近寄ってみれば、目線を合わせろとしゃがまされた。そして、気が付いたら視線にいっぱいに広がっているギルさんの顔と、唇の違和感。あれ、もしかしなくてもキスされてます?
「ん!? んー!!」
塞がれた唇から舌がねじ込まれる。そして、口内に広がる甘い味。あれ、これってもしかしてチョコ?
舌と一緒に入ってきたのはチョコだった。甘くて美味しい…のだが、口の中で弄ばれているのですが。
「ぷっは、ちょっと…いきなりなにするんですか」
「美味かっただろう? それと魔力供給だ」
「美味しかったですけど。魔力なら十分のはずじゃないですか。ギルさんのえっち」
最後に冗談を入れたのがまずかったのか、ギルさんに叩かれた。ちょっと、こっちは平凡な人だからもっと手加減してください。
でも、まぁ…こんな日も良いのだろうか。ある意味、忘れられないバレンタインになりそうだ。
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