どきどきが止まらない

「ん、んん!?」

湊はカレンダーを見て今日が何日であるか思い出した。今日は、2月14日。バレンタインデーだ。すっかり忘れていた。どうしようかな…。いつもお世話になっているレオンに感謝の意を込めて送りたいけど…今からなら間に合うかな。

レオンは夜にならないと帰って来ないし、今から材料を買いに行けば間に合う…と思う。ガトーショコラなら簡単に作れるし!そうと決まれば、早速買いに行こう!

湊は慌ててジャケットを着て財布とケータイを持って最寄のスーパーまで駆け出した。勿論、家の鍵はちゃんと閉めた。

スーパーまでは歩いて10分もかからない場所にある。今回は、荷物も多くなるだろうから自転車を使おう。自転車はマウンテンバイクだ。レオンが、近場に行くなら使えと買ってくれたものだ。普通のママチャリでも良かったんだけど…っていうか、アメリカにもママチャリみたいな奴あるのかな?

なんていうか、僕に甘いような気がするんですが…。良いのかな…。
それに、レオンの家にお世話になってるし…。だから、今日のバレンタインには立派なガトーショコラをプレゼントしよう!


というわけで、材料は買ってきました!
本当なら、晩御飯の材料も買ってくるところなんだけど、今日は外食をしようとレオンから誘われていた。だから、ガトーショコラの材料だけ買ってきたよ。

まずは、ガトーショコラから作ってみよう。ガトーショコラは簡単に言えばチョコレートケーキみたいなものだと僕は思ってる。今回作るガトーショコラはしっとりしてる感じのを作ってみたい。炊飯器があれば簡単に作れるみたいだし。でも、この家には炊飯器置いてないけどね。お金貯めて買おうかな…。おにぎり食べたい。

作り始めてから、30分。後は焼くだけになった。ちゃんと、手順どおりに作ってるし…間違えはないはず!
塩と砂糖を間違えた…なんてことはない、よね? う、うん。大丈夫だと信じよう。

オーブンで焼いている間は、暇なのでテレビを見ることにする。今やっているのはニュースだ。流れているのは、バイオテロのこと。僕はまだ会ったことがないがクリスやジルたちもBSAAとして頑張っているのだろう。一度で良いから会ってみたいな。

僕も、もっと頑張らなきゃ。レオンの足を引っ張らないように強くならないと。銃の扱いは大分慣れた。というよりも、体が覚えてるって感じかもしれない。あれだけ死ぬ思いをしたから当たり前って言えば当たり前かもしれない。ちょっとした物音でも体が反応する。


そうこう色々考えているうちに、ガトーショコラは焼きあがったようだ。切り分ける際に味見を忘れない。……うん、上出来だ。結構美味しいかもしれない。

後は、冷ましてラッピングをすれば完成だ。あ、上に粉砂糖をかけるのを忘れないようにしないと…。

さて、ガトーショコラも作ってしまった以上、本当にやることがなくなってしまった。なので、ハンドガンの手入れでもしようと思う。ハンドガンを分解し油を塗って元に戻す。ハンドガンは常に整備していないと、いざと言う時にジャムったり、暴発したりするからだ。ハンドガンに限らず、すべての銃に言えることなんだけどね。

銃の分解や改造は慣れた。分解は1分もかからずに出来るようになった。最初は全然出来なくて、挫けそうになったけどレオンが一から順に教えてくれたため頑張ることが出来た。改造も、一度初めてみたら以外にも楽しくはまってしまった。最近は、危なくない程度に魔改造するのが好きだ。


「ふんふふーん、ふふふーん」
「随分と機嫌が良さそうだな」

「ふぁああ!? れ、レオン! いつの間に帰ってたの!?」
「ついさっきだ」

いつの間にかテンションが上がっていたらしく鼻歌を歌っていた。不意に声をかけられ湊は飛び上がるほど驚いた。ばくばくと心臓が鼓動を打っているのが分かる。いつの間に帰って来たんだ!?

時計を見てみればいつもより早い帰宅だった。手は油で汚れている。

「また、お得意の改造か?」
「うん。一度始めたら止まらなくなっちゃって…おかえり」
「ただいま、ミナト」
「ちょっと、待ってね。手、洗ってくる」

流石に汚れた手でレオンに触れるわけにもいかないので、洗面所に行き手を洗ってくる。油はなかなか落ちないので石鹸を使って念入りに手を洗う。

「ミナト」

手を洗っている、その時だった。いきなりレオンが後ろから抱き着いてきたのである。いきなりのことに湊は吃驚してしまい、動きを止めた。

「れ、れれレオン!?」

洗面所には温水の流れる音だけが響いていた。それと、湊は混乱をしていた。まさか、抱き着かれるとは思っていなかったからだ。というか、いつの間に後ろにいたんだろう。流石はエージェント。なんて、場違いな考えしか浮かんでこない。

「水が勿体無いな」

勿体無いって、レオンが脅かすから流れっぱなしになったんじゃないか!

と、言いたいのだが密着している今、恥ずかしくて声すら出ない。レオンは蛇口を捻って水を止めた。そして、タオルで丁寧に湊の手を拭いている。もしかしたら、顔はやばいんじゃないか?
真っ赤になっていたらどうしよう…。

「あ、あの…レオン。離れようよ…」
「ん? いいじゃないか」

良くないよ! ぜんっぜん良くない!
だって、もう…僕の心臓は鼓動でやばいんだよ!

「さてと、ミナト。リビングに戻るぞ」

そう言ってレオンは湊から離れた。湊がほっとするのも束の間。今度は手を繋がれた。リビングまで少しの距離なのに。しかも、所謂恋人繋ぎというやつだ。指を絡める手の繋ぎ方。

「レオン、手…」

離して欲しいとは言わないけど、やっぱりどこか恥ずかしい。何でこんなにレオンが優しいっていうか、甘えん坊みたいなのか。まさか、バレンタインだから? いやいや、そんなわけはないだろう。

頭の中で自問自答を繰り返していればリビングに到着。到着すれば手は自然と離れた。あ、と口からこぼれた。少し名残惜しく感じるも顔には出さない。

「ミナト」

名前を呼ばれ顔を上げてみれば目の前には真っ赤な薔薇の花束があった。

「どうしたの、これ」
「今日はバレンタインだろ? それと、これもだ」

薔薇の花束を湊に手渡せば、レオンは自分のポケットから小ぶりのケースを取り出した。ケースを開けるとそこには小さなハートをモチーフにしたネックレスが入っていた。

「え、これって…! ちょ、絶対高いでしょ」
「このくらい平気だ。貰ってくれるか?」
「そりゃ、レオンのくれたものだもん。大事にするよ」
「なら、つけてやろう」

ケースからネックレスを取れば湊の首に手を回しネックレスをつける。ネックレスは光に反射しキラりと光った。
可愛いけど、僕に似合うだろうか。それだけが心配だ。


「ありがとう、レオン」
「どういたしまして、だ」

そうだ、用意していたガトーショコラをあげよう。薔薇の花束とネックレスとじゃ、全然釣り合わないが折角作ったのだからレオンに手渡そう。

「レオン、日本式のバレンタインって知ってる?」
「日本…確か、女性から男性にプレゼントするんだったな」
「そう。だから、これは僕からのプレゼント。美味しくなかったらごめんね…?」

レオンに手渡すのはラッピングをし終えたガトーショコラだ。一番見た目がいいのを選んだつもりだ。味は味見をしたときは美味しかったから多分大丈夫だと思いたい。

「ありがとう、ミナト」

レオンは湊に礼を言えば、頬にキスをした。湊は一瞬、何が起こったか理解できなかったが頬に残る感覚にぼん、と顔を赤らめさせた。いや、でも挨拶だと思うし!

どきどきが止まらない。嬉しいバレンタインになった。

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