ひなつぼし

──海沿いの坂道、ふじあみの籠を片手に、ペルは、大股に歩く。

「まったく、暑いこと──…」

──ペルの、しろやかなかおに汗がつたう。
 海風がはだの上をゆく。
 潮の匂いを含んだ風は、さらりと吹いて、かれの頭で菱染ひしぞめの布を揺らす──。

 みじかい下草の色が、あまりに鮮やかだ。
 ペルは、丘のみちを登ってゆく。
 水捌けのよい砂地がきらきら光り、まぶしい。砂粒の中に、細かな石英を含むからだ。
 丘のみちの表面は、いしくれと海砂がぜになり、歩きづらい。おまけに、たいそうな傾斜だったが──ペルの呼吸は少しも乱れず平静だ。

(──…なつかしい、)
 のぼりながら、ペルはひとりでそう想う。

 遠く、丘の上に、あめんどうの木がある。梢が透かす夏の空が、蒼い──。
 その、木の下に──しろく、何かの影がひららく。
 大きなつばの帽子──。
 目を細めて見上げれば、女がかれに手を振った。
──せいの高いおんなであった。

「ヘレウ」
 ペルは、丘の上のこいびとに手を振り返す。



 海辺から、すきなひとが手を振ってくる。
 かれもまた、振り返す。
──…幾度も幾度も、くりかえす。


つづく


火夏星(完全版)








とても陳腐で ありふれているけれども 決して忘れられない倖せ。



タイトルは「火夏星《ひなつぼし》」と読みます。火星のことです。



短ッかくて申し訳ございません途中です。思い切り冒頭です。

13年前〜時間軸くらいです。前回の2年後編と併せて読むとグチャグチャの気持ちに。

時間かかるかもしれませんが3000〜4000字ほどのものを予定しておりますのでいずれ完成させてUPしたいです。

信じれば、明日もペル誕!来月も再来月も、ペル誕!(?)

.
 top 
 
 
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -