鶺鴒のうた | ナノ

11


黄昏は失せ、薄暮れが辺りを包む。

ベットの上で結ばれた手を……ぼんやり眺めながら。……そっと、息を吐く。


「おばかさんね、また悩んでいるの?」


くすくすと笑う声に、のろのろ視線を上げる。日が暮れてなお輝かしい、この髪の色。
今や、すっかり潤いを取り戻した口唇。それがけらりと上を向く。


「……なにを…呑気に…」


憮然とした風に……強いて、そう言葉を返せば。
けらけらとさえずりの声は歌う。


「だってあなた、とっても素敵なものをくれたでしょう?」

「……馬鹿なことを…」

「最高の招待状じゃない。もう、ほとんど指輪とおんなじ……ううん、もっとずうっと綺麗な」


細い腕が……共に過ごすようになってから、それでも血色は良くなったのだが……それが、この首へと回される。
すぐ目前に、淡い色の唇。その下へ隠れた鋸歯きょしさえ包んで……なおやわらかな……
ぺたりと、触れたそれに。目を瞑る。


「……ね、連れて行って。あなたの行き着く終わりの場所まで」

「…………良いのか」

「よろこんで!」


薄らと開いた目蓋の先、盛夏に燃える木立の色。
猫のように細まる目尻は……この上もなく幸福そうに。からりからりと、笑った。

……脱力した体を引き寄せられる。

少女のような、このいとけなさ。さえずる鶺鴒のこえ。あえかな乙女のかおり。やわらかな胸にうずめた顔は、細い指に撫ぜられた。さらさらと、頭髪を梳かれる。


(…この先に……)


彼女を連れてひた進む、先の見えないこの道の先。

……その先に在って己らを待つのは、果たして何なのだろうか。それはいったい、どんな形をしているのだろうか。
そうして、それらを。この己と、この女とは……何を思い、何を見……遂には迎えるのか……


「きっとそれは、何よりのハッピーエンドね!」


……再び瞑った、この眼差しの先。
あの陰惨な濃紺の海は……もう、何処にも存在しなかった。



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