黄昏は失せ、薄暮れが辺りを包む。
ベットの上で結ばれた手を……ぼんやり眺めながら。……そっと、息を吐く。
「おばかさんね、また悩んでいるの?」
くすくすと笑う声に、のろのろ視線を上げる。日が暮れてなお輝かしい、この髪の色。
今や、すっかり潤いを取り戻した口唇。それがけらりと上を向く。
「……なにを…呑気に…」
憮然とした風に……強いて、そう言葉を返せば。
けらけらとさえずりの声は歌う。
「だってあなた、とっても素敵なものをくれたでしょう?」
「……馬鹿なことを…」
「最高の招待状じゃない。もう、ほとんど指輪とおんなじ……ううん、もっとずうっと綺麗な」
細い腕が……共に過ごすようになってから、それでも血色は良くなったのだが……それが、この首へと回される。
すぐ目前に、淡い色の唇。その下へ隠れた鋸歯さえ包んで……なおやわらかな……
ぺたりと、触れたそれに。目を瞑る。
「……ね、連れて行って。あなたの行き着く終わりの場所まで」
「…………良いのか」
「よろこんで!」
薄らと開いた目蓋の先、盛夏に燃える木立の色。
猫のように細まる目尻は……この上もなく幸福そうに。からりからりと、笑った。
……脱力した体を引き寄せられる。
少女のような、このいとけなさ。さえずる鶺鴒のこえ。あえかな乙女のかおり。やわらかな胸にうずめた顔は、細い指に撫ぜられた。さらさらと、頭髪を梳かれる。
(…この先に……)
彼女を連れてひた進む、先の見えないこの道の先。
……その先に在って己らを待つのは、果たして何なのだろうか。それはいったい、どんな形をしているのだろうか。
そうして、それらを。この己と、この女とは……何を思い、何を見……遂には迎えるのか……
「きっとそれは、何よりのハッピーエンドね!」
……再び瞑った、この眼差しの先。
あの陰惨な濃紺の海は……もう、何処にも存在しなかった。
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