親友の証言

 あの子の告白を止めれば、こうはならなかったのだろうかと考える。いいや違う。たとえあの子があいつに告白しなくても、きっと結果的にはこうなっていた。だってきっと初めから、あいつはこうするつもりだった。

 高校に入学して、親友と呼べる友達ができた。その子は気が小さくて、少し抜けている部分があったけれど、素直で優しい子だった。
 容姿も整っていて、クラスではモテていた。でもきっと、本人は気付いていなかったと思う。彼女は自分の恋に夢中だったし、クラスの男子も遠巻きで見ているだけだったから。
 なまえは同じクラスの明司春千夜のことが大好きだった。なんでも、入学式で一目惚れをしたらしい。確かに容姿は整っているし、あんなに綺麗な人そうそういないけれど、私はどうしてだか彼があまり得意ではなかった。
 一言で言うと、怪しいのだ。本心が見えないというか、どこまでが本当でどこまでが嘘なのかわからないというか。周りに対して拒絶こそしないけれど、明らかに友好的ではない。それをミステリアスと捉える人もいるのだろうが、私にはそれが少し怖かった。
 なまえはあいつに自分の存在を知られていないと思い込んでいたけれど、それは違う。あいつは彼女が思っているよりもずっと前から彼女のことを知ってた。知っていて、よく見ていた。それに気付いたのは私も随分と遅くなってしまった。きっとあのときから、あいつはこうするつもりだったのだ。

 女の子は恋をすると可愛くなる。それは例外なくなまえもそうで、あいつと付き合い始めてからさらに可愛くなった。どこか子供っぽさが残っていた雰囲気から、可憐で色香を放つような雰囲気になった。抜けていた部分も、そこに手を伸ばしたくなるような隙に変わった。
 彼女と付き合い始めると、あいつは彼女の見えないところで牽制をするようになった。それは男女関係なく。その根回しぶりは恐れを感じるほど。彼女に好意を抱いていた男子も、彼女を妬んでいた女子も、あいつに釘を刺されたと聞く(実際はそんな生易しいものではないと思うが)。それに私だって、あいつにとっては邪魔だったはずだ。直接関わっては来なかったけれど、目の前で彼女を奪うような態度を取られたのは一度や二度ではない。
 なまえは盲目的にあいつのことが好きだった。そしてあいつと付き合うようになって、あきらかに悪い方へと向かっていった。男子と話すどころか挨拶も許されない。週末はあいつと必ず過ごし、バイトも辞めさせられた。どう考えても普通じゃない。それでも彼女は「春千夜くんが嫌がることはしたくない」「わたしからお願いしたの」と言う。わたしにはその裏でほくそ笑むあいつの顔がすぐに想像できた。これ以上はまずい。しかし私がどう言っても、彼女の恋心を断つことなどできやしなかった。
 そうしてあの日、あいつがうちのクラスでキレた日。なまえを連れて帰る瞬間、あいつが一度こちらを見やった。どこまでもこちらを馬鹿にするような嫌な笑みだった。まるで、取り返せるものならやってみろ、と言われているような気がした。


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